1.すきなひと

俺には好きな人がいる。

それはこの学校の副会長だ。
そして俺は生徒会の会長である。

「会長、真面目に仕事をしてください」

「あーわかっている。ちょっと、ぼーっとしていただけた。」

俺は副会長にあんまり好かれてはいない、と思う。
それは俺がダラダラと仕事をしているからだろうか。
それとも学校中に広がる噂を副会長が信じてしまっているからだろうか。

副会長の名前は葉月 伶斗。
高校からこの学校に転入してきたが、その綺麗な容姿と気遣いのできる優しい性格で一気に生徒会副会長に登りつめたのである。

俺は、子どもの頃からこの学校に通っており、親の遺伝子の影響だけで生徒会会長となったが、性格については本当に庶民派である。
帰省すればファミレスだって牛丼屋だって行く。

母親が大きな化粧品会社の社長でばりばり働き、父親が主夫として俺を育ててくれたのだ。
普通に育ててくれた父さんに俺は感謝している。

ただ、学校では誤解されている。
それなり高い身長と、目つきの悪さでとっつきにくいらしく、友だちがあんまりできないのだ。
びくびくされるとこちらも話しかけにくい。

だからこの学校で俺が心置きなく話せる友人は限られているのである。

はあ、俺だってみんなと騒いだり青春してえよ。
話しかけるとなんで敬語で返事が返ってくるんだ。

「会長……、水無月会長!!」

「わりい!」

やばい、またぼーっとしていた。
葉月がこちらを睨んでいる。
ああ、瞳が綺麗だ…。

「会長?いつまでその書類見てるんですか。それとも俺の顔に何かついてますか」

「ああーっと、大丈夫だ。捺印だな、えーっと…ハンコ、ハンコ…」

「しっかりしてください」

はあ、とため息をつかれる。
好きなやつと毎日一緒にいても慣れない。
一挙一動にどきどきして、ぼーっとしてしまって、書類を間違えてまた怒られる。

多分葉月の中で俺は能無し会長だな。

書類に捺印していると、ふっと視界に影ができる。

「…え!?な、なんだ?」

葉月が俺の額に触れてきた。一気に体温が上がるのがわかる。
葉月と至近距離で目が合う。

「熱はないみたいですね、前みたいに偏頭痛にはなってない?」

「だ、大丈夫だ。」

「それならいいですが…。同級生として言っておく。仕事よりも自分の体が第一だよ。何かあっても仕事は助けてくれない。分かった?」

「あ…はい」

たまに話してくる敬語ではない言葉遣いに鼓動が早まる。

俺は今日も変わらず葉月が好きだ。


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