わかればなし


 今日、俺たちは別れることになった。

 原因は、あっちの浮気。…と、俺の無関心。あいつは、浮気性の男だった。誰にでも甘い言葉を吐いたり、触れたりするわけではないけど、とにかく誰とでもよく寝た。快楽主義って言うワケではなかったと思う。ただ、よく俺の目の前で浮気を繰り返す。積極的に浮気を見せるタイプの奴だった。

 傷ついた。とか、悲しいとかじゃなくって、俺は単純に意味が分からなかった。

 それも、告白してきたのはあっちだからだ。…好きだから付き合って。と、そんなことを言われた気がする。俺は、どうしてだったかそれに、いいよ。と、答えてしまった。

 俺も気まぐれだったのだろう。男と付き合ったことなんか一度もなかったけど、その時は、女のコと、酷い別れ方をしたばっかりで逃げたかったのかもしれない。何かに。簡単に言えば、俺は、心にぽっかり空いた穴を男で埋めることにしたのだ。

 だけど、告白してきたあっちが三か月で浮気をした。

 かといって、どうってこともない。最初は、ただ驚いたが、付き合うといったって、純愛小説の様な心が苦しくなるような思いの果てに付き合ったというわけでもなかったし、思い入れなどあるかといえば、ないに等しい。

 ただ、浮気の影を感じるたびに、あぁ。またか。と、日常になっていっただけだった。どうして、怒らなかったのか、悲しくなかったのか、今でもわからないけれど。

「荷物、これで全部?」
「うん。これで大丈夫。忘れてるもんあったら捨てて」
「…うん」

 あいつの部屋に置いていた私物をまとめ、よっこらしょと背に担ぐ。なんだかんだで居心地のよかったあいつの部屋を今から出る。

『別れようか』
『…お前が、そうしたいなら』

 玄関に近づくたびに、思い出が脳みそから零れ落ちる。

『俺、お前といる時が一番落ち着くんだ。』
『そうけ』

 ぽろぽろ ぼろぼろ

『お前の部屋いいな。なんか、落ち着く』
『じゃあ、ここにいてよ』

 零れては、俺の心から消えていく。

 扉のノブに手をかけると、その反対の手をふわりと握られる。簡単に振りほどくことのできる力のあいつの手は冷たくて気持ちがよかった。

「ねぇ」
「…なに」

 俺は、アイツを見ない。これ以上。振り回されるのなんて御免だ。

「俺、最低な浮気者だったけど、お前の事は、本気で好きだったんだ」
「・・・おれもだよ」

 俺は、アイツの手をゆるくほどき、不意に出た言葉を置き去りにして、部屋から出て行った。顔も見なかった。部屋を振り返ることもなかったし、追いかけてくることもなかった。それが、何処か悲しかった。

 俺は、それ以来あいつに会っていない。




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