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 祭りの時間 原田

「あっ、ちょっと待って。左之くん。」




楽しかったお祭りの帰り道。

私は慌てて左之くんを呼び止めた。そのまま手を引っ張り、人の波から外れる。




「おい、どうした?」




左之くんは驚いた様子で、私を見つめる。そりゃそうだよね、ごめん。




「あの、ね。鼻緒が切れちゃって。」




今日はお祭りに行くからって、気合い入れて浴衣を着た。だけど慣れない下駄になんとか耐え忍んでいた結果、人混みにもみくちゃにされ、鼻緒が切れてしまった。




「今ちょっと応急処置して、なんとかこの人混み抜けるまで頑張ってほしいんだけど……」




絶対に裸足でなんか、帰れない。間違いなく蹴られたり、踏まれたり散々なことになる。

でも生憎、私は鼻緒の直し方なんて知らなかった。だって浴衣ですら、数えられる程しかきてないのだもの。




「うんと、ここをこうすれば、いいのかな?左之くん、知ってたりしない、よね……」




「悪ぃな。こういうのは苦手でよ…」




格闘すること5分、直る気配は一向にない。直ったと思って足を通すと、すぐに元通り壊れた状態になってしまう。このまま粘って帰るしかない、そう覚悟を決めたとき。




「よし、下駄、落とすんじゃねーぞ。」




左之くんがそう言うのと同時に、私の体が宙に浮いた。




「こうしていれば、裸足で人混みの中歩く必要ねぇだろ。」




私の体は、しっかりと左之くんの腕の中に収められていて、そのまま運ばれていた。




恥ずかしいけれど、だけどすごく嬉しくて。




今日一番の思い出は、暖かな左之くんの腕の温もりになった。



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