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 blue bird

どうかこれからも、私の青い鳥でいて。


ケーキにのったろうそくに、火が灯される。真ん中には「一年記念日ありがとう」と書かれている、チョコレートのプレート。

今日で総司くんとお付き合いを始めて、一年が経つ。ちゃんと気持ちが通じ合うまで時間がかかったけど。

「……ちゃんと、覚えていてくれたんだね。」

嬉し涙を目に溜めながら、目の前の大好きな人に微笑んだ。


**************




彼との出会いは、頭数合わせで参加した合コンだった。

「この子、見た目いいんだけどねー。なかなか難攻不落なのよ!」

友人の千ちゃんにそう紹介された私は、ぺこりとお辞儀をした。
難攻不落、との表現には少々不満はあるけれど仕方ないかもしれない。私はそう簡単に付き合う付き合わないを決めない。だって男の人にとって彼女は、ステータスでありセックスさせてくれるだけの存在でしょ、って思っていたから。選ぶなら真剣に選びたい。本気で体を預けられる人がいい。

「へぇ、確かに可愛いよね。僕が、落としちゃおうかなぁ。」

沖田、といったっけ。私、こういう人苦手。だって見た目からしてチャラいもん。

その日を境に、沖田くんは本当に私を狙ってきた。
けれど、正直言って、彼には興味がなかった。
むしろ避けたい部類。美味しいご飯につられて合コンなんぞに行った自分を恨んだ。

度重なる彼からの電話に初めて応えたのは、溜まっていた仕事が佳境をむかえていた時だった。とにかく上手くいかなくて、失敗の連続。なんとしてもここで取り返さなくては、と焦っていた。
携帯電話が着信を知らせると、反射的に電話をとってしまう。それくらい、慌てていたということだった。だけど聞こえてきたのは。

『あっ、やっと電話出てくれたんだね。僕だよ。ありすちゃん、元気?』

「うっわ、間違えた。私、ありすじゃありませんから。」

『嘘言わないの。なんだか声疲れてるね、仕事大変なの?』

あの合コンの時しか、私の声を聞いていないはずなのに、彼はそれを見破った。
月並みな言葉を並べない、彼の励まし方。時々棘を持ったような言葉をかけてきたけど、むしろそれがカラカラの心に染みわたっていくようで、いつの間ににか涙が頬を伝っていた。

もしかすると、彼は想像以上に私のことを分かってくれていたのかもしれない。

『……泣いてるの?』

「悔しいなぁ、沖田くんに励まされちゃった。」

『意地を張っていた君の負けだね。』

なぜか私はそこに、希望がみえた。
彼ならもしかして、と。
だけど「うん。」の一言が出てこなかった。

次に聞こえてきたのは、ツーという、通話終了を知らせる音。気がつけば、電源ボタンを押している私の親指。

私がこんなにガードが固くなったのには、理由があった。
それは、この前まで大好きだった元カレ。当たり前のように好き合っていたと思っていたのに、実は裏でとんでもないことをされていた。二股なんて、可愛いものじゃない。

付き合うことなんて、簡単だ。
要はそれが、本気かそうでないか、というだけで。
沖田くんは、まだいい。自分はチャラいです、って顔に書いてあるからだ。
私から近付かなければいいだけだから。

「で、その後沖田くんとはどうなったの?!」

私を合コンに引っ張り出した千ちゃんが、身を乗り出して聞いてくる。

「何よ、別に。ただ一回だけ電話しただけだから。」

本当に、あの一回きりだった。
それどころかあれ以降、今までたくさんあった不在着信もメールも一切なくなってしまった。
こんな可愛げのカケラもない私に幻滅したに決まってる。そうだ、それでいい。

(どうして、自分にそう言い聞かせてるの?)

今までこうやって、私はいつも暗闇につつまれている。
好きだ、なんて陳腐な言葉。

「まだ元カレのこと引きずってるわけ?世の中捨てたもんじゃないよ?」

(どうして、沖田くんの好きという言葉が恋しいの?)

自問自答の行き着く先はなんとなく分かったけど、もう手遅れだ。


私の携帯電話のディスプレイに、沖田くんの名前が表示されたのはそれから一ヶ月くらい経った頃だった。

「………もし、もし?」

おそるおそる電話をとる。
聞こえてきたのは、だけど元気のいい沖田くんの声じゃなくて、銃声のような雨音、そして。

『……だから、…………好きだよ、沖田くんのこと。』

あれほど私と沖田くんを薦めていた、千ちゃんの声。

『…………なんだ、……………付き合おうかな。』

雨音のせいで、ところどころしか聞き取れないけど、やっぱりそうだったんだ。でもまさか、友人とデキるなんて思ってなかった。

窓の外を見れば、道路を挟んだ向こう側の公園に沖田くんの姿が見えた。
青の傘と、ピンクの傘がゆらゆらしているのが分かる。

(こんな近場でぬけぬけど………!!)

なんだか無性に悔しくて、拳一発お見舞いしたくなった。

傘も持たずに、公園に向かって飛び出す。靴に雨が染み込んで気持ち悪いけど、そんなのお構いなしに信号まで走った。時々傘をさした人にぶつかる。強くなった雨も手伝って、全身はびしょ濡れだ。
赤信号になるギリギリに、信号を渡り切る。あとは公園の入口まで全力疾走。

公園の入口で、向こうからやってきた沖田くんと鉢合わせする。
びしょ濡れの私を見て、どうして、と言わんばかりの表情をしている。
切れる息、お構いなしに流れてくる雨粒、その中に感じる目から流れるもの。

「ばか………っ」

「なんで、ありすちゃんがここに?」

「沖田くんの、ばか!やっぱり本気で私のこと好きじゃなかったんだ!」

繋がったままの、携帯画面を見せる。
沖田くんは、はっとした顔で自分の携帯電話を取り出した。

「うそっ、なんでありすちゃんに電話かけたことになってるの?」

「とぼけないで、全部聞いてたんだから!あの子と付き合うんでしょ?この口先男っ!!」

なんで私はこんなに怒っているのだろうか。
なんでこんなになってまで、やっぱり沖田くんに会いたくなったのだろうか。

ふわり、柔らかな風が吹いた。

泣きわめく私をそっと宥めるように、沖田くんの体が私を包む。
足元には、さっきまで沖田くんがさしていた傘が転がっていた。


「……そんなに泣いちゃうほど、僕が好きだった……?」

ぽんぽん、沖田くんの大きくてでも優しい手のひらが、私の背中を撫でる。

「電話のことは、事故だよ。僕、本当にかけてないから。それに……」

ハンカチをとりだして、私の涙を拭う。久しぶりの沖田くんの香りに、胸が高鳴った。

「さっき君の友達と話していたのは、ありすちゃんのこと。だけどまあ、君のことを諦めて別の子と付き合おうと思ったのも事実だけど。」

なぜ私が、恋愛に臆病になったのか。沖田くんはずっと気になっていたみたいで、その話を千ちゃんに聞いていたらしい。
そして千ちゃん曰く、私は沖田くんのことが好きだから、諦めるべきではないって話していたらしい。

「君のこんな姿見たら、そんな気持ちぶっ飛んじゃったよ。」

僕は本当に君が好き、そう言って沖田くんは唇を近付ける。
だけどそれは、あと数ミリのところで止められた。

「ありすちゃんは、男の人が怖いだけ?それとも僕が嫌いなだけ?」

手をぎゅっと握りしめて、返事をする。

それを聞いた沖田くんは嬉しそうに微笑んで、その数ミリの距離を縮めたのだった。















**************


総司くん曰く、私達の記念日は合コンで出会った日らしい。
あの時から私達は恋人になったのだと、そう言った。

ありふれた日常でさえも輝かせるのが、恋の力だ。

「はじめて君が電話に出た時、既に僕のことが好きだったんでしょ?」

ケーキを器用に切り分けて、お皿に盛り付けた。私の分には、チョコレートものっけてくれる。

知らぬ間に誰かを好きになって、その人の声を聞いたら自然と涙がでてきて、そしてようやく自分の想いに気付いた。

「当たり前の幸せって、こんなにも気付けないものなのね。」

メッセージが書かれたチョコレートのプレートを眺めながら、総司くんとの出会いを思い出した。

「それでいいんだよ。僕はこれからも君の青い鳥でいよう。」





いただきます、口いっぱいに広がったのは、ケーキではない甘く柔らかいものだった。










end







3000HIT記念企画でRia様よりリクエスト「沖田現パロで沖田さんが真剣にアタックするもそれを避けるヒロイン、浮気に走りかける沖田、それで切甘」でした。うまくまとまってない……この企画を始めた時、一番最初にリクエスト頂きながらも最後になってしまいました。すごく丁寧にプロット頂いたので、どうにもこうにも難産でして笑
実はすごく設定というか、流れが気に入っていまして、このままで終わらせたくないなーというのが本音です。あの、長編化してもいいですか笑
ということでRia様お気に召していただけましたか?お持ち帰りの際はRia様のみでお願いします。この度はありがとうございました! ありす



















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