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 Ring Ring a ding

ときめきをくれる、魔法をかけて。


今まで、というか今現在に至るまで、仕事に捧げた人生だった。
おかげでこのポジションに昇りつめたわけだけど、その犠牲が大きいことに今更気付いた。もう戻れないけど。

私、三十路を直前にして男性経験が皆無に等しいのです。

学生時代、付き合った人はいた。
だけどそれはほんの数ヶ月で、セックスどころかキスすらしていなかった。
やったことといえば、手を繋いだくらい。しかも、数回。
それ以降すっかりご無沙汰になってしまったそれは、私の中で無かったこととして認識されている。多分周りから見ても、そうだと思う。

だけど最近、突然のことなのだけど。
年下の男の子に迫られています、しかもイケメンに。

ある仕事で一緒になった原田君は、突如私に猛攻を仕掛けてきた。あ、念のためだけど、自惚れじゃない。周囲も原田君本人も公認だ。
顔合わせの飲み会で、いきない「俺、ありすさんに惚れたかも。」そう告白された。その飲み会は座敷だったから、その後原田君はずっと私にもたれ掛かっていて。原田君の筋肉質な体を感じながら、男物の香水がふわっと香った。忘れられない、あのいい香りは、アレだ、Calvin klein。



そして今日、学生時代以来のデートをする。相手はもちろん、原田君。
一緒にしていた仕事もひと段落したある日の休日、半ば強引に決められたデートだった。

「お待たせ、………待った?」

待ち合わせ時刻をちょうど回った頃、原田君は既に待ち合わせ場所にいた。いつもはスーツ姿ばっかり見ているから、私服がちょっと新鮮。へぇ、こんな服装するんだ。

「いや、んな待ってねぇよ。それよりありすさんの私服、意外だな。」

いつもはパンツスーツだから、原田君は私のスカート姿を知らない。お互い同じこと思ったんだ、ってちょっと可笑しくなった。

「私も同じこと、思ってた。」

「ははっ、俺たちいつもはオフで会わねぇもんな。」

ほら、いくぜ。原田君が、微笑む。

いつもは私の言う事聞く原田君が、今日は私をリードしてくれている。そんなこと考えたら、ちょっと脈打つスピードが早くなった。

原田君が連れてきてくれたのは、海辺の観光スポット。近くにショッピングモールとか海を一望できるタワーがあったり、所謂デートスポットだった。
男の人とこんなところ行ったことがなかった私は、すっごくどきどきして。
原田君が色々話しかけてくれるけど、緊張しすぎて、何を喋っているのか正直わからない。とりあえず相槌してればいいかな、なんて。

「ありすさん、具合でも悪いのか?」

原田君が心配そうに私を見た。
ううん、違うの。そう首を振る。なら安心した、そう言った原田君に私は少し前の出来事を思い出す。

確か一度私が仕事中貧血で倒れた時、原田君が医務室に連れて行ってくれた。あのときは意識が朦朧としていたからよくわからなかったけど、周りの話によれば、盛大にお姫様だっこしてくれたみたいだった。「原田くんさ、すごい心配してたよ。」同僚の女の子が羨ましそうに言っていた。
そういえば、そんな話を聞かされたら何だか恥ずかしくって、お礼がちゃんと言えてなかったっけ。

「原田くん……、ありがとうね。」

「え?何がだ?」

知らない間に口から出ていた言葉。

「あ、えっと。その、この前私が倒れた時……。」

「どうしたんだよ、今更。」

「ほんと、今更だよね。ごめん、突然。」

また思い出したら気恥ずかしくなって、目をそむけた。だけど原田君の視線を痛いくらいに感じる。

「……ありすさんってよぉ。」

原田君が、ぽつりと言葉を繋いだ。

「ほんと、面白いから好きだぜ。」

原田君から紡がれる「好き」は心臓によくない。あまりに胸がきゅうっとするから、どうしていいか分からなくなる。恋愛偏差値の低い私には、その解決策を知らなかった。

「普段はさ、バリバリ仕事してるのに、そうやって実は隙だらけでさ。」

原田君は私以上に、私のことを知っている。仕事でちょっと失敗した時、人知れず落ち込んでいたのに気付いてくれたのも原田君。やり場のない怒りをどうしたらいいのか分からないのに気付いてくれたのも、原田君。原田君だけだった。

「だから、好きなんだよ。だから、守りたくなっちまう。」

何事もないように伝えられた、愛の言葉。

「……ごめん、こういう時どうしたらいいのか、私には分かりかねるのですが……。」

今の気分は、そう。
魔法使いが目の前に現れた、シンデレラ。今まさに魔法をかけられる、その瞬間に居合わせたよう。

大きな声で原田君が笑った。
あまりにいたたまれなくて、下を向きつつ言い訳した。

「そのですね、あまり私、男の人に可愛がってもらったことがありませんでして。」

「……だと思ったぜ。」

「め、面目ない……。」

暫く流れる沈黙が痛い。
これじゃあもう、原田君の前で偉そうにできないじゃない。

だけど、そう原田君が言った。

「んなの、わからなくていーんだよ。」

原田君が、私をぎゅっと、引き寄せる。

そして柔らかい、口付け。

「………?!!!?!!」

慌てて口元を抑える私の両手をそっと包んで。

「とりあえず、恋人らしく振舞っとけ。」

そのまま手を引っ張った。
海風と一緒にふわりと、体が運ばれる。


「これからたくさん、可愛がってやるからよ?」



自分の気持ちに気付かされるのは、あともう少し。




(もしかするともう魔法にかけられていたのかも、しれないわ。)






end






3000HIT記念企画よりみやちゃんからのリクエストで「年上ヒロインが年下歳三君か左之助君に迫られるお話」でした!ということで、原田君を採用です。歳三君はありすの永遠の年上であってください!!!へへっ。
なんかこれ別に年上ヒロインじゃなくてもよくない?とかナシで、よろしくお願いします。
みやちゃん、今回もお気に召していただけましたか?お持ち帰りの際はみやちゃんのみでお願いします。この度もありがとうございました!いずれ年下歳三くんもやりたいです、結局。











































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