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 アオゾラカナタ

じゃあね、って言ったら廻り始める日々がある





まだ太陽が昇りきっていない早朝に、目を覚ます。
さっきまで見ていた夢を思い出す。あたたかな夢だった。

(夢の中だが、あの人に触れた気がした……)

あの人、とはさとうありすのことだ。俺はかれこれずっと片想いしている。でもそれは何となく、叶いそうもないものだと感じていた。

歳上の彼女は、俺の今現在仕事の上司だ。同じ会社だが、部署は違う。その部署でそこそこの地位を築いているから、色んなところで彼女は知られていた。前から美しい女性だとは感じていたが、今回一緒のプロジェクトに携わることで、その想いは本物になった。

と、同時に分かったことがある。
俺が所属する部署の土方部長も、彼女が好きだということが。

土方部長は、尊敬できる入社以来の上司である。あの若さでこのポジションまで昇りつめたことが、土方部長の実力を物語っている。それに、女性からの圧倒的な支持を得ている。理由は、その端麗な容姿だろう。

今回土方部長と彼女が中心となってこのプロジェクトを進めている。俺は所詮土方部長にくっついてきただけの、外野陣に過ぎないのだ。
それにどうやら土方部長と彼女は、一緒に仕事をするのはこれが初めてではないらしい。彼女と土方部長は同い年。時折出てくる昔の事案の話が、俺を一層追い詰めた。


土方部長と同じ女性を好きになってしまった。俺に殆ど勝ち目はないだろう。




夢の中で彼女に触れた、左手を握り締めた。温かい。本当に彼女に触れても、こんなに温かいのだろうか。
頭の中は、彼女のことでいっぱいだ。殆ど感覚で朝食を作る。目玉焼きが焦げた。いかん、相当夢脳内お花畑になっている。






タイムカードをきって、定位置のデスクに腰掛けた。
土方部長は既に来ているようだが、姿はなかった。おそらく彼女のところへいっているのだろう。上着がかかったままだった。

予想は大方当たっていた。他の部署へ書類を届けようと社内を歩いていると、小さなカフェスペースに土方部長と彼女の姿があった。コーヒー片手に談笑している。
その優しい眼差しに土方部長の好意のが含まれているのが、よくわかった。
さすがは土方部長。目だけて語れるとは。到底俺には出来っこない。

果たして彼女は俺のことを、どう思っているのだろうか。
こんなことを聞いたら、彼女はどう思うだろうか。

「おはよう、はじめくん。」

「相変わらず早ぇな、斎藤。」

廊下でカフェスペースから出てきた二人に遭遇した。
手元には仕事の資料がたくさん抱えられている。きっと寝る間も惜しんでディスカッションしていたのだろう。

「おはよう……ございます。」

返事をした頃にはすでにディスカッションの続きがなされていて、俺の入り込む余地などなかった。

「ありすと仕事出来て助かってるよ。ありがとな、今日の会議も、頼む。」

「そんなっ、土方くんにそう言ってもられるなんて……」

「本当のことだぜ?ありすみたいな仕事のやり方、俺は好きだ。」


ふと聞こえた、二人の会話。
土方部長が好きなのは、彼女の仕事のやり方ではなく、彼女自身だろう。そう突っ込みたくなった。
だけど彼女に対する距離は、土方部長の方が格段に近い。それは今までの積み重ねもあるだろうが、自分自身が何もできていないというのとが原因だろう。

「………さとうさん……!」

不意に叫んでしまった、彼女の名前。
驚いた様子で、彼女がこちらを振り返る。

「今度、仕事で相談したいことが……あるのだが。」

「もちろん、いいよ?いつでも声かけてね。」

彼女はみんなに笑顔を振りまく。
なのに俺は、もしかしたら。なんて考えてしまうのだ。







ある日ふと耳にした、噂。

『土方さんがさとうさんに告白したらしいよ。』

『美男美女で、ひょっとするとお似合いビックカップルの誕生だね。』

彼女は何と返事をしただろうか。
もちろん土方部長のことは嫌いではないだろう。要は彼女の気持ちが、LIKEかLOVEか、そのどちらかだという事だ。


俺のことなど一人の部下でしかないのだろう。だから、願うならば、数多くの彼女の部下の中で、大切な一人になれればいい。

記憶に残る1人になれればいい。


ただ、悔いるのは。
もし俺が、先に想いを伝えていたら、彼女はどうしただろうか。
周りはどんな風に噂しただろうか。


夢の中でいい。二人きりになれないだろうか。

そして、それならば喜んで、彼女に触れてこう伝えよう。










「あんたが、好きだ。」


「土方部長になんかに、渡しはしない。」






end




3000HIT記念企画はじめ大好きママ様より頂戴しましたリクエストで、「土方さんとはじめさんに迫られる羨ましいお話」でした。
あれ、あれ土方さん迫ってます?お兄さん、迫ってますか?結局斎藤さんのばりばり片想いで終わってるような、オチがないような……。どうしても二人に迫られるのって難しい!
はじめ大好きママ様、お気に召していただけましたでしょうか?お持ち帰りの際は、はじめ大好きママ様のみでお願い致します。ありがとうございました!ありす





























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