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 Seacret Path




総司くんとは、高校一年生の秋からお付き合いを始めた。
学年の中でも一位二位を争うくらいカッコイイ総司くんと、なぜ私が一緒になれたかはよくわからないけど、そんなことはどうでもいい。総司くんと居れるだけで、もう何もそれ以外考えられなかった。

「総司くん、お疲れ様!」

部活が終わった総司くんを、笑顔とスポーツドリンクで迎えてあげるのが私の日課。総司くんのいる剣道部は全国大会の常連だから、すごくハード。本当はマネージャーやろうかな、って思ってたけど、剣道に私情は持ち込まないのが総司くんのスタンス。だからあまりお節介しないことにした。

「最後の部活、どうだった?」

そう、今日は総司くんにとって最後の部活。高校三年生になった私達は進路もきまり、あとは卒業を待つのみで。
実際プライヤーとしては去年引退した総司くんだったけど、進路が決まった後はいいアドバイザーとして部活に参加していた。

「そうだね、少し寂しいかな。土方先生とおさらばできるのは、最高だけどね。」

「そっか。はい、スポドリ!」

タオルを添えてスポーツドリンクを渡せば、ありがとう、と受け取ってくれる。夕陽に照らされた総司くんの表情に、胸が高鳴った。ああ、すごくカッコイイ。

「ありすちゃんも、もう帰るよね?」

「うん、でも急いでいないから、総司くん待つよ。」

「じゃあちょっと待ってて。これ飲んだら自転車とってくるから。」

総司くんは、今日の部活であったことをたくさん話してくれる。私はそれを聞いているのがすごく好き。特に顧問の土方先生との因縁の対決は、シリーズもので面白かった。


一休みして自転車を取りに裏口に回る。その間私は校門で待っているのがお約束になっていた。

(こうして部活帰りに一緒に帰れるのも、今日で最後かぁ……)

足元の小さな小石を蹴った。
卒業したあと、私達はどうなるんだろう。進む大学はそれぞれ違うから、このまま別々になっちゃうのかな。だって総司くんのいく大学は、とても大きなところだから。

(そんなの、寂しいよ……)

付き合って2年が経つけど、まだ総司くんの知らないことだってたくさんある。まだまだこの人と一緒にいたいのに。

(総司くんは、どう思っているのかな)

だけどそんなこと聞いたら、まるで別れが現実になりそうで、怖くて切り出せない。

「お待たせ。さ、乗りなよ。」

総司くんはすごく優しい。
学校からお互いの家は真逆なのに、総司くんは私を自転車の後ろに乗せて送ってくれる。部活後で疲れているはずなのに、僕が送りたいから、そう言って甘えさせてくれる。

私は、この特等席から見る景色がすごい好き。だって総司くんと同じ目線で、今総司くんが見ている景色を同じように感じられるから。なんだか、同化したみたい。

「ありがとう。じゃ、お邪魔しまーす」

しっかり跨って、総司くんに身を委ねる。私の手を引っ張って、総司くんは自分の体に誘導した。せっかくだから、しっかり腕を総司くんの腰にまきつける。

「今日で、最後だね。こうやって送ってもらうの。」

「卒業式の日まで、送ってあげるよ?」

「……うん、でも総司くんと見る、夕陽が好きなの。」

少し錆びた音をだして、自転車が動き始める。暖かな風が、頬をかすめた。
桜の花がもう咲き始めている。

学校から私の家までは、河原にそった一本道をずっといく。河川敷では少年たちが野球をしたり、お年寄りの人が犬の散歩をしている。

「ねえねぇ、どっかでカレー作ってると思わない?」

「え?カレー?僕はこれ、肉じゃがだと思うんだけど。」

「あー確かに!とにかく、玉ねぎ煮つめている香り!!」

他愛のない会話を交わしながら、私たちをのせた自転車は風を切っていく。

いつもと変わらない、光景。
(だけど私、ちゃんと覚えているから)

総司君が試合に負けた日も、私とケンカした日も、そういえばタイヤがパンクした日もあったね。
私たちがここを通ることがなくなっても、この景色は変わらないのかな。やっぱり、どうしても総司君と一緒に入れる残された時間は、少ないような気がして、胸が切なくなった。

ふと、ブレーキがかけられる。
総司君を見れば、遠くを見つめていた。


「どうしたの?忘れ物?」

覗き込むようにして総司君を見れば、なんでもないよ、と言った。
ただ漠然と夕陽をながめているようにも見えた。

「きれいだね、夕陽。」

総司君が言葉をこぼした。

「うん、だから私、好きなんだ。」

もしかすると総司君も同じことを考えているのかもしれない。

「ありすちゃんもきれいだと、思う?」

念を押すかのように問われる。今度は黙って、こくりと頷いた。

「じゃあ僕とちゃんには同じように、あの夕陽が映っているのかな。」

「どうしたの、急に..?」

総司君が弱弱しく見えた。
黙って繋がれた手に、ぎゅっと願いを込める。

(どうかまだ総司君のそばに居させて)

「こんなこと言ったら、怒るかもしれないけど。」

総司君が言葉を発すると同時に、つないだ手の力が強くなる。
私も負けじと、握り返した。どうしよう、早く打つ脈が、総司君に聞こえてしまいそう。

「正直言って、大学生になっても君と一緒に居れる自信がないんだ。」

それは私も同じ。
今は毎日一緒だから、嫌でも会える。だけどこれからは行く先が違うから、お互いが会うためには明確な意思が必要だ。
新しい環境に飲み込まれつつ、それができるのだろうか。ここずっと悩んでいたこと、そして総司君と残されている時間が少ないように感じる理由。

「私たち、自然消滅しちゃうのかな。」

「...それは、させたくない。」

ちょっぴり安心した。総司君に、終わらせたい意思がないと、わかったからだ。

足元にボールが転がっていた。
顔を上げれば、小さな少年が大きく手を振っている。総司君はボールを拾い上げると、その子のほうへ思いっきり投げた。

「僕はきっと思い出すだろうね、この景色を。」

携帯電話を取り出し、ぱしゃり、とその風景をカメラに収めた。

「え?ここのこと?こんな普通の景色を?」

総司君は、私の顔をしっかり見つめた。
逆光になってその表情はよく見えなかったけど、きっといつもの優しいまなざしが注がれている気がした。








「君と一緒に見た、大切な景色じゃないか。」







きっと総司君にも映っている、私と同じ光景。
それは二人だけの、秘密の暗号。


Seacret Path
(あなたとみた景色、ずっと忘れないよ)



end














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