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 世界はまわると言うけれど



午後の西陽が差す、総司くんの部屋。
私は買ってきたばかりの漫画本を読んで、総司くんは好きなRPGのゲームに熱中していて。

特にすることも、何もない日曜日。

「総司くん、お腹すいた。」

「んーピザでも頼む?そのへんにクーポンあったよ。」

物が散乱した机の上を少し動かすと、私の家にも入れられていた宅配ピザ屋さんのチラシを見つけた。下の方に、サイドメニューが1品おまけでついてくるという、クーポン付きだ。

「総司くん、このクーポン2000円以上じゃないと使えないってよ?」

「ピザ2枚くらい頼んだらいくでしょ?」

「そんな食べたら持ってきたプリン食べれないよ。」

甘いものがあまり好きではない総司くんだけど、あのお店のプリンは好きみたい。
だから一人暮らしの総司くん家にお邪魔するときは、こうして差し入れとして持ってくる。

総司くんが一人暮らしで良かったと思う。
まだお互い学生の身分で、同棲なんてできないから。だけど特に何もしなくても一緒にいたいと思ったとき、ふらっと総司くん家に行けばいいから。

食べ物の話題は、それっきり途切れた。
部屋にはページをめくる音と、ゲームのコントローラーの電子音が響く。

確かに総司くんという彼氏ができてから、いわゆるデートスポットにいくっていうことにも憧れたけど。やっぱり普通が一番かな、なんて行き着いてしまう。

「ねぇ、総司くん。」

「ん、何?」

でもそれは、本当にそうなのかな。

「明日世界が滅亡するとしたら、総司くんはどうしたい?」

この前の西洋史の講義で聞いた、「世界の滅亡」。
仮にそれが明日だったらとしたら、私たちは何を選ぶだろうか。

「どうしたの?なんか悩み事?」

「いや、特に意味はないんだけど。ただ、そういう時でもこうしているのかなっ、て。」

残された時間を悔いなく過ごせた、そう来世で思うためには私たちは何をしたいのだろうか。

「それって、死ぬ直前まで僕は君といるってこと?」

「あ、そこから考えちゃうレベル?」

確かに、誰と一緒にそのときを迎えるかから選択肢はたくさんある。
まだ私たちは結婚していないからもちろん家族ではない(そういう約束もしていないし)。そういえば赤の他人、という括りなのか。

「うーんそうだなぁ。」

総司くんはやっていたゲームを止め、私の横に腰掛けた。
小さな座椅子、総司くんは青で私が色違いのピンクを使っている。これは私が総司くんの家に出入りするようになってから、お揃いで揃えたものだ。

「特に思いつかないから、こんな感じでいいかな。」

一瞬、私は落ち込んだ。
だってすごい妥協されているみたいだったから。

「ふーん、特に私としたいとか、やり残したこととか、無いんだ。」

読みかけの漫画を再び開いた。
ちょうど主人公が世界滅亡を防ぐために命を捨てるシーンだった。

「あれ、そういう風に捉えちゃうの?もっと喜ぶかと思ったけど……。」

「え、だってそういうことじゃないの?」

総司くんは、私から漫画を取り上げた。あまりにもその力が強かったから、バランスを崩しそうになる。
というか、崩した。




「こういう時間が最高なんだよ、ってことだよ。」





ぐうたらして、じゃれあって。
どうでもいいことでケンカして、いつの間にか仲直りする。

特別はいらない。


「………あ、ピザ、Lサイズなら2056円だよ。」

転んだはずみで、さっきまで見ていたチラシが頭上からひらひらと舞い落ちてきた。

「じゃあ、クーポン使おうよ。」

「ここはやっぱ、ポテトだよね。」








食べたいやつに大きな丸印をつけたら、私は受話器をとった。



世界はまわると言うけれど
(このままで、いよう。)



end









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