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 春待つ花のように 沖田

「ごめん、ボタン全部あげちゃった。」



木陰から覗いた沖田先輩は、だらしなく前開きになったカーディガンを見せ女の子たちをあしらっていた。




今日は卒業式。今まで先輩が卒業しようが誰が卒業しようが悲しいと思ったことなんてなかったけれど、今年だけはちょっと違う。

今現在お付き合いしている沖田先輩が、今回の卒業式をもってこの高校を去ってしまう。

当たり前のように毎日同じ場所にいたのが、当たり前でなくなってしまうのだ。



沖田先輩は、人気者だ。剣道部ではしょっちゅう優勝するエースだし、勉強もできる。そんな沖田先輩と私がどうして付き合いをはじめるようになったのはともかく、全員が全員この交際を認めてくれるわけがなかった。彼女でなくても沖田先輩が誰か女の子と喋っていれば一大事件だし、そんな状態で「私、沖田先輩の彼女になりました」なんて言えるはずない。間違いなく殺される。

だから私たちが付き合っていることは、隠すことにした。



(お、遅かった…!!!!)



だから、ほら。

沖田先輩の第二ボタン(それどころかボタンすら)をもらうには、いくら彼女だからって少しでも遅れをとったら、もうアウト。

せめてボタンをもらって、高校時代の沖田先輩を少しでも長く感じていたかったのに。



「…ねぇ、そこでなにしているの?」



「ふぇつ!?」



いつも間にか沖田先輩に、背後をとられていた。そんな私のリアクションをみて、大笑いする沖田先輩。いつだってこの人に、勝てた試しがない。



「ほら、手、だして。」



腕を掴まれて、強制的に手のひらを上に向けた。そしてすぐに何かが、音を立てて乗せられる。




紛れもなく、沖田先輩のボタンだった。第二ボタンどころか、個数的におそらくありったけすべてのボタン。



「君以外の女の子に、ボタンあげるわけないでしょ。」



自信たっぷりな言葉だけど、そう言った表情は少しだけ照れていて。

初めてに等しい沖田先輩の照れ顔に、心の底から彼が愛おしくなった。




「嬉しいっ…!!ありがとうございますっ!!」



沖田先輩にぎゅっと抱きつけば、そっと抱き返してくれる。

私たちは木漏れ日降り注ぐ中で、誰にも見られないようそっとキスをした。





Fin.





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