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 ON THE WAY

遠くの方から、こちらへ走ってくる音が聞こえる。不規則に廊下に響くそれは、確実に俺の方に向かっていた。

「ありす……」

そっとその名を呼んでやれば、足取りはさらに軽くなって。ありすは手に持った大きな紙袋を大きく上下させた。

「待て、焦らなくていい。そうでないと、あんた……」

この先を言いかけたその矢先、危惧していたことが起こった。

「大丈夫−−−−っ!!はじめ……きゃっ!」

左側に大きく傾いたありすは、そのまま体勢を崩し収拾がつかずそのまま派手にすっ転んだ。鈍い音が辺りに響く。こちらからその姿を見れば、まるでぺたりと床に張り付いているようだった。紙袋からは詰め込んでいた書類がはらはらと舞っている。

「まったく…だから、言っただろう。」

そっと手を差し伸べれは、ありすはくしゃりと微笑んだ。恥ずかしそうにためらいながらも、その手を重ね合わせた。

「ごめん、はじめくん。またドジしちゃった。」

「俺は構わない……が、そろそろあんたの体は大丈夫か。」

大丈夫、そう繰り返しながらありすは立ち上がる。シワになったスカートをのばすと、何事もなかったかのように歩き出した。
毎度ながら、ありすは走って俺の方に来るとに、転ぶ。今のように派手に転ぶわけだが、どうやら体に異常は今のところないようだ。


俺の隣で上機嫌に鼻歌を刻みながら歩くありすが恋人になって、半年が経つ。
5つ上の彼女は、同じ会社で働いているわけだが、どちらかというとバリバリのキャリアウーマンで名が通っていた。営業成績は常に上位で、土方部長曰く「仕事ができて、無駄に美人」。
そんなありすとどういう経緯でこういう関係になったかは話せば長くなるが、簡潔にまとめるとすれば、たまたま俺がありすの「素」を知ってしまったからだ。
こう見えても、実はどちらかというと天然の類いに分類される。さっきみたいに突然すっ転ぶし、手料理を振舞うといって鍋を焦がしていた時はどうしようかと思った。
が、そんな姿を見て「俺がそばにいなくては」という思いが芽生えたのだ。

「さて、何食べにいく?」

先ほどのスライディングをものともせず、相変わらず明るい声でありすが切り出した。基本的に一緒に出掛けるのは、会社帰り。お互い仕事を終わらせて、裏口につながる廊下の一角で待ち合わせる。特に人目を気にしているわけではないが、ありすが少しばかりここでは有名人だからこうすることにした。

「そうだな…ありすは。希望はあるか。」

あくまで恋人でいるときは、関係は対等だ。これが付き合い始めるときに決めたルール。年上だからといって、上下関係はない。
互いの呼び方もそうだ。もともと別になんと呼ぼうがありすは気にしないのだろうが、名前で呼ぶことにしたのはありす自身のリクエストでもある。

「うーん、焼肉。」

「じゃあそうしよう、そういえば近くに一軒見かけたな。そこで、いいか。」

決してありすは、自分を偽らない。
食べたい物があれば素直に言うし、嫌なことがあればちゃんと人に伝える。そういうところもありすの魅力の一つだ。

「あっ、うん!でも………はじめくんは?いいの、これで…?」

「ああ、構わないが……何故、そのような事を聞く?遠慮はいらない仲だろう。」

「だって、…はじめくんの意見、あんまり聞いたことがないから…」

そう言って急にしおらしくなったありすは、ちらりと俺を覗き込んだ。俺と間逆で、ありすはその時の感情がすぐ顔に出る。今はきっと、少し遠慮しているということだろう。

「気にするな、あんたが食べたいものなら俺は何でもいい。」

普段はきびきびと働いているありす。
最初は俺も、近寄りがたい印象があった。しかし距離が縮まるにつれて、本当はそうでないことを知った。
何より嬉しかったのは、そのありすの素を、俺だけが知っているということだ。
実はかなりのおっちょこちょいなこと、強気に見えて本当は人一倍他人を大切にしていること、ついでに意外と男らしい一面を持っていること(焼肉はありすの大好物なわけで)、全て俺だけのものだ。

「私だって、はじめくんに楽しくデートしてほしいんだもんっ。」

「あんたに付き合うのも十分楽しい。何も自分の希望でないから退屈するわけではない。」

二人で過ごす度に、ありすの新しい一面を見ることができる。それだけで今日も一緒に過ごせたことに、心から感謝できるのだ。

「そ、そっか……ならいいけど…。はじめくんには、いつも甘えちゃうね。私の方が年上なのに。」

「年齢は関係ない。そういうことにしたはずだ。」

実際そういうルールだが、本当に気になったことはなかった。ありすはするりと俺の心の隙間に入り込んで、まるで切り株に腰を下ろすようにそこにいるのだ。
そしていつの間にか、そこ存在が当たり前になっていた。

「二人でひとつ…ありすの求めることは、俺の求めることであることを覚えておくといい。」

つい溢れた本音。
普段そういったことを伝えるのは苦手だったが、この時ばかりは抑えきれなかった。
聞かれてしまってはいないか、恐る恐るありすを見る。

「……えっ、何か言った?」

「あ、いや……なんでもない。気にするな。」

目を丸くしてこちらを向くありすに安堵しつつ、わざと目を逸らした。今ありすを見ることは、どうしてもできないような気がしたのだ。

「ねぇ、はじめくん。」

会社内部と外部を隔てる扉をくぐる。季節はもうすぐ本格的な夏を迎える頃だから、まだ辺りはうっすら明るい。

「手、繋ごっか。」

先程とは逆に、手を差し出される。夕日に照らされたその綺麗な指は、まるで俺を導くようで。

「ああ…。」

迷うことなく、指を絡めた。

「また転びそうになったら、支えてね。」

「もちろんだ。その役目、喜んで引き受けよう。」

そして歩幅を合わせ、歩調を合わせ。
二つの影がきれいにのびて溶け合っていくのを、俺は眺めていた。










ON THE WAY
(走れ、君とどこまでも)












のん様

のん様、この度はキリリクありがとうございました!バリキャリだけど実は天然ちゃんな年上ヒロインちゃんが、斎藤によしよしされる(すみません、勝手にまとめました笑)ということで、……え、よしよし?あのですね、のんさん私の素をご存知ですのでめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど、あの、すみません……(ぺこり)
いつも遊んでくださってありがとうございます!これからもよろしくお願いしますね^ ^


ありす





























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