◎ CANDY POP
お日様はもう空高く昇っているというのに、私はまだ半分夢の中。
もう起きなきゃってわかっているけれど、見事なまでにベットに逆戻り。
だらだらと重い瞼と格闘しながら数時間、すぐ横で聞こえた愛おしい人の足音。
「ありす、いい加減起きろ。飯作ったぜ。」
「んー...まだ寝たい...。」
左之くんの手作り朝ごはんを食べたくないわけではないけれど。
昨日まで私の仕事が立て込んでいて、まともに寝ていなかった。なんとか締切までに仕事を終え、朦朧とする意識の中、左之くんの住むマンションへとたどり着いた。そこから先の記憶はあまりない。多分本能的に体と頭が布団を求めていて、あっという間にダイブ。
「疲れてるのはわかってるけどよ、俺が寂しいんだよ。」
左之くんと、ベット。
どちらも今の私には捨てられなくて。でも左之くんがそんなこと言うから、私どうすればいいかわからなくなっちゃうじゃない。
「じゃーこうするっ....。」
だから私は、左之くんをベットの中に引きずり込んだ。
大きな体、だけど私を優しくそして柔らかく包み込んでくれる。耳元で「仕方ねぇな。」って聞こえれば、頭を撫でてくれた。これがとっても気持ちいい。
左之くんの体温を身近に感じながら、もう一度目を閉じる。
こうしてぎゅうっとしてくれているだけで、疲れがすっと抜けていく。そんな左之くんの力は偉大で、きっと左之くんがいなかったら私、ここまでやってこれなかった。
「仕事、よく頑張ったな。」
「うん。左之くんがいたから、私頑張れたんだよ。」
彼のために稼いでいるわけではない。左之くんに家庭にはいってもらうわけではないし、まずそもそも結婚していない。お互い収入はどっこいどっこいだし、お金に困っているわけじゃない。
それでも、心の支えになる「誰か」がいることは、とっても大事なことだと思う。
私にとってそれが左之くんで、こうやって一段落したら癒してくれることをわかっているから、頑張れる。
「今日の朝ごはん、なぁに?」
左之くんはお料理も上手。
度々左之くん宅にお邪魔すれば、手料理を振舞ってくれる。
私はそれが大好き。だって左之くんのつくる食事は何でもおいしいから。
「ありすの好きなパンケーキ焼いた。」
「チョコバナナに生クリームたっぷり、それから粉砂糖かけてくれた?」
「あたりめーだろ?お前さんの好きなようにしてあるぜ。」
室内に立ち込める、甘い香り。
さっきから薄々気になっていたけれど、その正体が私の大好物だと知って気分は最高潮。
左之くんは私の全てを知っているから、好きな食べ物なんてお手の物。
「どうだ?少しは起きる気になっただろ?」
「んーでも...左之くんとこうしてもいたいー...。」
私がそう言うと、左之くんはちょっとだけ困った顔をした。
しばらく考え込むと左之くんは掛け布団をどけて私の隣に入り込み、そして何事もなかったかのようにベットボードに背中を預けた。
「今日はありすに付き合ってやるよ。疲れてんだろ?なにしたい?」
「そうだなぁ...左之くんとこうやってダラダラしていたい。」
「んじゃ映画でもみよーぜ。録画してあるのが溜まってるからな。」
飯は後でもなんとかなるだろ、そう付け加えて左之くんは頭上に手を伸ばし、手探りでテレビのリモコンを引き寄せた。
ビデオモードのスイッチを押して、ハードディスクを起動させる。画面に表示される、映画タイトルの数々。いつか見るから、そう言って溜に溜めた再放送の映画たち。
「あっ、これ見たかったんだー。」
「んじゃ、これで。」
左之くんは再生ボタンを押すと、私を見やすいところへと導いてくれた。
そしてその手を休めることなく、私の体をさすっていてくれる。そんな些細な優しさが、私の疲れた体に癒しを与えてくれるから。
この人が、本当に好き。
左之くんと一緒にいると、天使みたいに体がふわっとなって幸せな気持ちになる。
多分左之くんじゃないと、こんな気持ちになんてさせてくれない。
「やっぱりお腹空いたかも。」
映画の序盤、退屈な前置き。
部屋中に溢れるパンケーキの焼けた匂いが、私の食欲をそそる。
そんな私に気付いて、何も言わずベットから出て行く左之くん。遠目にフライパンに火をつけるのをみて、甘えすぎたかな、なんて反省。
「ごめんね、気分屋さんで。」
その大きな背中に、申し訳程度の謝罪をする。返事の言葉はなかったけれど、左之くんは代わりに手をヒラヒラとしてみせた。
全然気にしない、まるでそう聞こえてくるようで。
「テレビ、止めておくね。あーっ、いい香り!」
「だろ?今温めてやってるから、そこで待っとけ。」
「ベットの上で食べちゃう?」
ふふふ、と零れた笑い声にお互いが顔を見合わせた。何ともないワンシーンだけど、左之くんとは特別だから。
「ほら、食えよ。」
ご丁寧にベットにまで運んでくれた、ほくほくのパンケーキ。ちゃんと食べやすい大きさに切ってくれていて、わざわざフォークにさして目の前に差し出された。ホイップクリームたっぷり、バナナもちゃんとのせて。
「あーん…」
されるがままに口を開けば、すぐに広がる甘い味。思わず頬をおさえてしまう。絶対頬が落ちるなんてないけれど、そらくらいに幸せ。
左之くんも、味見がてら一口。
ちゃんと頷いて、左之くんも美味しいって言った。もちろん素直に美味しいって意味もあるけど、きっと頷いた理由はそれだけじゃない。私が気に入る味だってことを試したのだと思う。自惚れなんかじゃなくて、左之くんはそういう人だから。
「なぁ、ありす。」
「なぁに?左之くん。」
淡々とテレビに映し出される映画が、最初の山場を迎えた。手元のパンケーキはあっという間に底をつきそうな頃合い。
「俺たちさ、だいたい好きなもの一緒だし、どうしても合わないってことないだろ?」
「そうだけど…どうしたの?」
左之くんが手を伸ばし、最後の一切れにフォークをたてた。お皿の周りに残ったチョコレートソースをすくうようにたっぷりつけて、私に差し出す。
「俺とありす、わりと上手くやっていけると思ってる。」
口の中が幸せいっぱいで、何も言葉を出せなかったから、力強く首を縦に振る。
それを見た左之くんは目を細めて笑ってくれた。
「お前さんが疲れた時、こうやって傍にいてやりてぇ。俺が疲れた時は、ありすが傍にいてほしい。だから…」
左之くんの指が、私の口元をなぞる。
その指先には、生クリームがついていた。左之くんはそのまま、ぱくりと自分の口に運ぶ。ちょっとだけ恥ずかしくなって、目を臥せた。
「まずは一緒に住むところから始めないか?」
その言葉の真意を理解したとき、口いっぱいの幸せが体中を駆け巡ったんだ。
CANDY POP
(二人の未来がきらきらと弾けてる)
凛様
凛様、この度はキリリクありがとうございました。仕事疲れのヒロインちゃんを原田が癒す…とのことでしたが、すみません、ただのバカップル…!(デジャヴ)癒すというよりは甘やかされてるというかお世話されているというか……最終的にはまったく別方向へぶっ飛んだ気もしますが、凛様にお気に召していただけたことを祈りつつご挨拶とさせていただきます。
改めてキリリクありがとうございました!
尚お持ち帰りの際は凛様のみでお願いします。
ありす
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