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 幸福なペット

二人で入るために、お湯は半分位しか貯めなかった。スポンジで一生懸命たてた泡を浮かべたら、まずは私から足を入れる。肩まで浸かる前に左之助くんも背後に回って、一緒にざぷん、と身を沈めた。

何気ない日曜の夕方。
まだ陽は完全に落ちきっていなかったけれど、私達はお風呂に入ることにした。
一日中ごろころして、お腹が空いたらポテトチップスをつまんで。夕飯は適当に出前でいいからって、珍しく一緒のお風呂に入ることにした。

「ありす、痩せたか?」

後ろから抱きしめられるような形で湯船に体を並べる。左之助くんは背後から手を回し、私のお腹の上で手を組んでそう言った。

「あ、分かる?へへっ、ちょっと痩せたのー!」

ほんの少しの違いにも気づいてくれる、左之助くんが心から愛おしい。
特にダイエットしていたわけではないけれど。ここ最近仕事が忙しくて2Kgだけ体重が落ちた。乙女にとって、理由はどうあれ痩せて嬉しいことはない。

「ここ最近、忙しそうだったもんな。食事抜いたりしてたのか?」

「結局タイミング逃しちゃったりしてね。栄養ドリンクで済ますこととか多かったかも。」

自分の指と指を絡めて、簡易の水鉄砲をつくる。
ぴゅっと押せば、小さく水しぶきがあがった。

「だめだろ?お前ただでさえ痩せてるんだからよ。これ以上痩せてどうする。」

「えー?女の子にとって痩せればなんでも嬉しいんだよー?」

「だめだ。早くもとに戻せ。」

そう言って左之助くんは、私のお腹に触れる。
ぷにぷに、とお肉を掴んでは寂しくなった、と一言。

「だめだよー!そんなに触らないで!気にしてるんだから...。」

「なーに言ってんだ。ぷにぷにしているほうが気持ちいいんだよ。」

左之助くんはそのままありたこちらを触れ回る。
時々くすぐったかったり、どきどきするようなところに手がいったり。
そうやって左之助くんに翻弄されっぱなしで、なんにも反撃なんてできなくて、ちょっぴり悔しい。

まるで私は、猫じゃらしで遊ばれている左之助くんのペットのよう。
素敵な飼い主さんに、たくさん可愛がられて幸せな子猫。

「左之助くんっ、さっきからおかしなところに手がいっているような気がするんだけど...。」

「疲れてるかな、と思ってマッサージしてやってるんだけどな?だめか?」

「だってっ...!そこは、疲れていないっ...。」

左之助くんの手は、今私の胸をすっぽり包んでいる。
決して前戯ではなく、ただそっと添えているだけなのに。
何故かこちらが、もっとその先まで欲しくなってしまうのだ。

負けたのは私の方。
誘われる餌に我慢できなくなって尻尾を振り続ける、子犬。

私たちふたりの間で、大抵の場合左之助くんからそういう流れに持っていくことが多い。いつも私はされるがままで、望む刺激を言葉にしなくても与えられてきた。
今日だって、ほんの少し待っていればそうしてくれると思っていた。

「左之助くんっ...。」

「どうした?顔真っ赤だぞ?」

今日の左之助くんは、すっごく意地悪。
私が欲しいものを、あと一歩のところで与えてくれない。
早く左之助くんに、甘えたくて。早く左之助くんを、感じたくて。

「わかってるくせに...。」

「言ってくれたら、たっぷり甘やかしてやるけど、どうするか?」

後ろから聞こえた声は、なにもかもお見通しってかんじだけど。
それに従わざるを得ないのも、事実。
くるりと体を半回転させて、左之助くんの方を向いた。膝立ちになって左之助くんの肩に手を置けば、髪先から水滴がぽたぽたと滴り落ちる。

「左之助くん....このまま、したい...。」

思わず恥ずかしくなって、その逞しい肩に顔を埋めた。
胸が左之助くんの胸板と触れ合うのも、お構いなし。だって後からたくさん触ってもらうんだもん。

「おい、ありす...。」

私の名前を呼んだ、その声がいつもらしくなくて。
やっぱりだめだったかな、なんて数秒前の私の決死の行動が無駄になったかと思うと、ますます身動き出来なくなる。

「今のは...反則、だろ。」

左之助くんは私の体を起こして、そっと顎に指を添えた。
いつそんな技を覚えたんだ?そんな風に問い詰められるような視線を向けられて目を逸らしたくなったけど、左之助くんの力のこもった指がそれを許すことは一切なくて。

「...ちゃんと、出来ていた、かな?」

絡められたままの視線に、どうしようもできない間。
恥ずかしさがこみ上げてきて、穴があったら入りたい、とはこういう事だと噛み締める。

左之助くんの手が、そっと頭を撫でた。
ゆっくり、頭上を往復すれば優しく微笑んで、「よくできたな。」と一言。
もう子供じゃないけれど、左之助くんにこうやって甘やかされるのは嫌じゃない。むしろ、好き。胸がきゅうっとなる。

「...というか、予想以上だったかもしんねぇな。」

そのとたん、私の体はふわりと宙に浮いた。
左之助くんの両腕がしっかりと私を抱いていて、お母さんが赤ちゃんを抱くみたいに、私は抱き上げられていた。
こんな大人になって、なんて思ったけれど。左之助くんのこの腕の中ならなんの不安もない。軽々しく私を持ち上げている姿が洗面所の鏡に映ると、左之助くんは見せつけつけるかのように少しだけその前で止まった。

「お前さん、今週も仕事頑張ったんだろ?」

「うんっ。..左之助くんと今日は丸々一日一緒にいたいから、頑張ったの。」

「んじゃ、ご褒美な。風呂場じゃやれること限られてるし、さっさとベッド行くぞ。」

濡れた体も拭くことなく、お構いなしに寝室へとむかう。
床はおかげでびしょびしょだけど、私も左之助くんもそんなことを気にしていられるほどの余裕はなかったように思う。

そのまま、大きなダブルベットに私は着地した。
左之助くんが私のために買った、ダブルベット。私好みの低反発素材が、きっちりと体を受け止める。
裸のまま横たわる私に、左之助くんはまるで蓋をするように覆いかぶさった。ぎゅっと抱きしめられれば、耳元で聞こえた小さな笑い声。左之助くん、すっごく楽しそう。

「左之助くん、私...幸せ。」

「俺も。」

口に出して確かめ合った幸せ。
脆く儚いけれど、きっとその分、ありふれたものじゃない。
この幸せが、一つ一つパズルのピースみたいに私を埋め尽くす。

「ねぇ、ご褒美くれるんでしょ?...たくさん、可愛がってよ。」

「たりめーだ。覚悟しとけ。」

きつく抱きしめあったまま、ごろりと一回転。
今度は左之助くんが下から私を見上げる。私の前髪を、左之助くんの大きな手が掻きあげる。額同士をくっつければ、互の体温が行き交うみたい。







「いい子にはたっぷり欲しいものやるよ。最初に何がほしい?」






そう尋ねられれば、私は迷うことなく「左之助くん」って言ったんだ。







幸福なペット
(そして再びあなたに堕ちる)





ペンギン様

ペンギン様、この度はキリリクありがとうございました!
原田or斎藤で(エロく)甘やかす..とのことでしたので、すみません、こういうお役目は原田がぴったりかと思いまして笑勝手に原田でいかせていただきました....斎藤もちらっと出したかったんですけど、二人にエロく甘やかされる状況などこのポンコツ脳みそでは考えられず、ごめんなさいさせていただきました。
甘やかされる、といいますか...ただのバカップルになってる気もしますが、ペンギン様のお気に召していただけたことを祈りつつお礼をご挨拶とさせていただきます。
改めまして、この度はありがとうございました!お持ち帰りの際はペンギン様のみでお願いします。

ありす












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