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 You Belong With Me

煌びやかなホテルのロビーを通り抜けて、美しい螺旋階段を登って2階にあがった。
目の前の大会場の扉はまるで私を招き入れるかのようにこちらを向いて開いている。入口には、私の高校の名前が書かれた札がかかっていた。

今日は成人式。
法律的に大人になったことを祝う日、そしてそれを覚悟し決意を新たにする日、だ。
お着物を着て、地元の公民館で月並みなお偉いさんのスピーチを聞いて、それから親と写真館で写真を撮って、大忙しだった。だけど私が今日1番楽しみにしていたのは、夜に行われる高校の同窓会。大学で地元を離れた私にとって、久しぶりに同級生と再会できる数少ないチャンスだった。

「ありす!久しぶりだね、元気?どお、都会は?」

「うんうん、元気だったよ!あはは、でも都会まだ怖いかな。」

美味しそうなオードブルが並べられた会場内は、多くの人で溢れかえっていた。
ほとんどの卒業生が参加すると聞いていたから、おそらく数百人はいるのだと思う。さっそく出くわした友人に声をかけられ、解禁されたばっかりのお酒を口にした。

「誰かに会った?」

「ううん、まだだよ。これから声かけようと思って。」

友人がカメラを向けた。頬を寄せ合って、ピースサイン。
控えめにフラッシュが光れば、その出来を確認する。いつもよりもお洒落に着飾った私たちは、自分で見てもいい笑顔だった。

「そういえば、藤堂来てるみたいだよ?ほら、早く探してきなよ。」

「え、平助くん?あ、ちょっと!」

背中を押されて、人ごみの中へ放り投げられた。さっきまで隣にいた友人の姿はもうそこにはない。周囲をきょろきょろ見渡せば、ホテルの人が空いたグラスを下げてくれた。そういうつもりはなかったのだけど。

私の高校時代は、切ない片思いで終わってしまった。
その相手こそ、平助くん、だ。明るくて、かっこよくて、そしてとても優しい人。
平助くんは地元の大学に進学したから、あの卒業式の日以来会っていない。

偶然にも平助くんとは3年間クラスが一緒だった。
席もいつも隣になって、多分仲もよかったと思う。授業中はノートの切れ端に書いた文字で、会話をした。すっごく他愛のない話、だけど私にとっては幸せな時間だった。
はじめは意識していなかったと思う。ずっと隣にいるうちに、それが当たり前になって、いつの間にか大好きになっていた。

そして想いを伝えられないまま、卒業した。
むしろ伝えられなかった。

平助くんには、とってもかわいい幼馴染の女の子がいる。高校まで一緒、つまり私の同級生でもある。
きっと彼女も、平助くんもお互いを好き合っている。私の出る幕なんて、なかったのだ。

「……ありす?」

「へ、平助くんっ?!」

突然渦中の人から声を掛けられ、思わず身を強張らせた。
振り返ればいつもの笑顔の、平助くんがいた。だけどビシッとスーツを着込んで、いつの間にか大人の男の人になっていた。

「おっ、着物のまま来たんだな。すげー似合ってる。」

「あ、ありがとう!平助くんこそ……スーツ、びっくりしちゃった。」

「そっか、卒業以来会ってねーもんな。元気してたか?」

数年のブランクを感じさせないかのように、ゆったりと会話は続く。
ただいつもと違うのは、手に持ってる飲み物がジュースじゃなくてお酒だってことだ。
やっぱりあっという間にお互い大人になってしまったんだ、と思ってしまう。

それでも私の中には、ずっと平助くんが居た。
平助くんのことが好きなのは、いまでも変わらない。

「千鶴ちゃんは……元気?」

「え、千鶴?ああ、今短大通ってるぜ。」

それとなく聞いてみた「幼馴染」のこと。
きっと彼女には一生叶わないのだろう。

「そうなんだ、今日見かけてないから…後で話したいな、と思って。」

そっか、そう呟いて平助くんはもう一度お酒を口にした。
それにつられて私もグラスを口に近付ける。

「平助くんさ、…覚えてるかな。高校生ん時よくメッセージ交換してたの。」

「当たり前だろ!すげー覚えてるぜ。しりとりしたの楽しかったな!」

それを聞いて私は少しホッとした。
空白の時間があっても、それでも平助の記憶の中にはまだ私が居た。

「この間さ、つい隣に平助くんがいると思っちゃって。大学で隣の人につい、しりとりしようって言っちゃったの。」

「なんだよそれ!隣の人もびっくりだな。」

そう、それくらいに平助くんが隣にいてくれたらな、なんてずっと思っていた。

好き、貴方が本当に好き。

「……あのさ、久々に、言いたいことまた書いて交換しねぇ?」

「え、うん、いいね!どんな事……書こうかな。」

料理が並ぶテーブルに添えられた紙ナプキンを2枚とった。今は高校生時みたいにノートの切れ端じゃないけれど、それでもいい。平助くんに込める想いはひとつだから。

だけど、三年間かかって伝えられなかったことを、今この一瞬で文字に託すのは無理な話な気がした。
どのみち平助くんには素敵な彼女さんがいるし、優しい平助くんを困らすだけになってしまう。
それでも「今日は楽しかったよ」なんて月並みな言葉で終わらす訳にもいかない。色んな想いが頭の中をぐるぐる回って、手元のボールペンが小さく震えた。

「改めて書くと……恥ずかしい、な。」

「えへへ、そうだね。何書こうかな…」

しばらくの沈黙が私たちを包んだ。
周りは賑やかなはずなのに、ガラスのドームの中にたった二人取り残されたような気分だった。言いたいことはたくさんあるはずなのに、今更伝える勇気がないのだ。

「……俺は、できたぜ。」

「わ、わたしも……できたけど。」

昔は順番なんて構わず、回しあっていたのに、ちょっとの年月がこんなにも変えてしまう。さっきまで気に留めていなかったその重みを感じる。

「じゃ、じゃあ…俺から、かな。」

どくん、と小さく心臓が不規則な鼓動を打った。

「すげー今更かもしんねぇけど…」

そう言って、広げらたくしゃくしゃの紙ナプキンには。






『お前が、好きだ』




確かにそう書かれていたのだ。

「え……?」

「なんだよ、恥ずかしいから早く何か言ってくれよ!!そーだ、ありすも早く見せろよ!」

まさかそんなことを、今この場でこのタイミングで伝えられるなんて思ってもいなかった。
それよりも、平助くんにも公認の「幼馴染」がいるのではないのか。

「……千鶴ちゃん…は?」

「え、誤解するなよ!あいつ、ほんとただの幼馴染だから!つか、高校生んときから付き合ってる先輩いるし。」

「そっか、私てっきり……。」

何を勘違いしていたのかよく分からなかった。それでも平助くんが言葉に託してくれた気持ちが、心から嬉しい。

私は慌ててまだ見せていないメッセージを、開く。近くのテーブルの上で、ついさっきまで平助くんに伝えようとした言葉を書き直した。太く線を引いて、少し下に、本当のうちの本当の言葉を書き連ねる。

「えっと、てっきりってことは……ありす、お前……。」

頬をほんのりと赤らめて、こちらを見る平助くんはまだあどけない少年の姿。
あの時から、やっぱり変わっていない、その姿。

これでよし、そう心の中で呟いて、そっとメッセージを開いて見せた。








『私も平助くんのことが、好きです。』



You Belong With Me
(それは仕組まれていたのだと)










fin.






かやの様

かやのちゃん、この度は相互ありがとうございました!
平助くんで成人式的な……ということだったので、がっつり季節外れの成人式できめました!!成人式……うわ…数えちゃだめですね笑実は真面目に平助くんと向き合ったの開設以来でして、いつにも増して似非具合に磨きかかってますが許してください…!
ということで改めて相互ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!
お持ち帰りの際はかやの様のみでお願いします。

ありす











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