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 鐘の音

真っ白な絨毯が敷かれた地面を踏んで歩く度にさくさくと音をたてて雪が私の足を足首まで飲み込む。

今年は異常気象だとテレビで言うだけあって普段は雪が積もることのないこの地域もすっかり雪景色となっていた。



それでもまだ足りないと言わんばかりに降り続く雪を見上げる。



初詣に行こうと家を出てきたけれど歩き辛さから歩みは遅く、もう予定だとついている時間なのにまだ私達は道中をゆっくりと進んでいるところだった。





「雪、止みませんね」



「そうだな」



ポツリ、とこぼした呟きを拾って私と同じように空を見上げたその横顔に視線を移し、暫くその横顔を見つめていると私の視線に気が付いた斎藤さんはこちらを見るなり無表情のまま僅かに首を傾げた。



「どうかしたのか?」



「いえ、斎藤さんは雪がよく似合うと思いまして」



斎藤さんの黒い服に藍色の髪、そして深い蒼い瞳は雪の白さで引き立ち、その立ち姿は白に生えてまるで白い紙に墨を垂らしたように美しい。

本当に水墨画の中から出てきたように絵になるなぁ。



「それを言うならありすの方だろう」



蒼い瞳が細められ、口元は緩やかに弧を描く。

雪のせいでその微笑みはいつもより何処か神々しさに似た幻想的な雰囲気を持っているように感じる。



「いいえ、斎藤さんです」



見れば見るほど斎藤さんほど雪の似合う人は居ないとすら思える位だ。私なんかと比べ物にならない。



「いや、ありすだ」



言い返されるとなんとなく言い返したくなって。そんな小さなことをお互いに譲らなくて暫く「斎藤さん」「ありす」とお互いの名前を交互に口にして言い争っているとそのうちなんだか可笑しくなってきてしまって、笑ってしまった。

こんな小さなことだけど、ふざけて笑いあえるのはとても幸せだ。



「ふふっ…もうどっちもどっちで良いです」



「そうだな」



斎藤さんも笑ってくれて二人でくすくすと笑っていると、遠くから鐘の音が響いてきた。

その音は過ぎ行く年を惜しみながら新たな年を歓迎する鐘の音。そして私たちにとってはもうひとつ、斎藤さんの誕生日を迎えたことを報せ、祝福してくれる音。



この音が聞こえたのなら、斎藤さんに言わなきゃいけないことがある。



「斎藤さんお誕生日おめでとうございます」



あわてて鞄を漁ると事前に用意した包みを取り出して差し出す。

斎藤さんは目を丸くして私と包みを何度か見比べてからゆっくりと手を動かして包みを受け取ってくれた。



「ありがとう」



「それから…明けましておめでとうございます」



「ああ、今年もよろしく頼む」



にこりと微笑みを交わして二人でまた、寺院を目指して夜道を歩き出す。



その途中、ふと右手に感じたのは柔らかな感触で。

手袋越しでも斎藤さんに握られたのだとすぐに分かるからすぐに握り返せば、布越しでも温かさが伝わるような気がした。



願わくば、今年もずっと斎藤さんの隣に居られますように。







おわり






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