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 サロメ8

ありすを外出に誘ったものの、土方はその行き先に頭を悩ませていた。

恋仲でもない女性と、どこへいけばいい。

他の隊士は巡回のついでにありすを連れ出していたが、今日は違う。しかも何故か、「とびっきり綺麗にしてこい。」と言ってしまった。
土方はありすを何を求めているのか、自分でも理解できていなかった。

夜になる前に、芹沢鴨のもとへ土方は出向いた。
今夜は、自分がありすを借りるということを伝えるためだ。
借りる、とはなんだかありすを物のように扱ってる気がしたが、そうでもしないとありすとはゆっくり過ごせるような気がしなかった。

ありすのいる物置部屋の前を通り、しばらく歩いたところに芹沢鴨の部屋がある。
土方は遠目に、芹沢鴨の部屋の前に待機する隊士に気付いた。

「芹沢さんに、用があるんだが。」

「これは副長……!実は芹沢局長から、部屋に誰も入れると命を受けておりまして……。」

平間と新見を失い、孤立していた芹沢鴨だったが、この頃はそのへんの隊士をとっ捕まえては雑用を命じているようだ。

「誰もいれるなぁ?なんだそれは。まあいい、芹沢さんに伝言しといてくれ。」

ありすの事はあまり大っぴらにしていないので、土方は文にして言付けを頼んだ。

中身は見るな、ときつく命じてその場を後にする。

(あの人も孤独になっちまったな……)

土方は少し寂しさをおぼえつつ、ありすとの約束の時間を待つことにした。






約束は、酉の刻とした。

(ありす、遅いな………)

平隊士にありすの姿を見られぬよう、場所は普段あまり使われることのない勝手口とした。

もしかすると、沖田や原田に捕まっているのかもしれない。あの連中に捕まったら厄介だろう。
しかも今晩は、いつもより着飾ったより女らしい姿をしている。どうか自分の名前だけは出さないでほしい、土方はこっそり祈った。

(ったく、俺は何を期待しているんだ)

ありすが今晩どのような姿で現れるのか、女好きの原田には絶対たまらないだろう、など想像は絶えない。

土方はきつく腕を組み直し、足を小刻みに動かし始めた。
その時、背後で物音がした。

「………ありす、あ、いや斎藤か。」

「副長……何故、このような所に。」

ありすではなかったが、斎藤だったことに土方は心から安堵した。
沖田だったら、間違いなく話の餌食にされていただろう。

「いや、俺はまぁ、あれだな。それより斎藤こそどうした。」

「はぁ……そのまた原田達が派手に喧嘩をしたようでして、傷薬を、と。」

「なんだ、原田達はありすと一緒じゃねーのか。」

どうやら土方の読みは違った。
それならば、沖田や藤堂か。それなら良いが、もう一つの可能性に行き着いた時土方の顔が青ざめた。

(芹沢さんなら、ありすを奪いかねない……!)

あの芹沢鴨が、素直にありすを他の男に渡すはずがなかった。
見つからなかったのならいいものの、もしもの事があっては心配だ。

屯所内を全力で駆け抜ける。
途中で沖田とぶつかりそうになったが、土方はそんな事に構うことなどできなかった。

いくつかの曲がり角を過ぎ、古びた扉を勢いよく突破しながら、まずは一つ目の目的地にたどりついた。
土方の部屋の隣にある物置、つまりありすの部屋を覗く。
部屋の中は、真っ暗だ。いつも着ている着物だけが、きれいに折り畳まれて置かれていた。

(くそっ、遅かったか!)

外では雷鳴が轟きはじめた。
凄まじい雨音が、響き渡る。

足元を掬われそうになりつつ、身体の向きを変えた。
十中八九、悪い予感が的中しそうだった。一刻も早く、ありすのもとに向かわなくては。

「土方さん、さっきからどうしたんですか。危うくぶつかるところでしたよ。」

再び沖田とすれ違う。
土方の異様な形相に、気になるとこらがあったらしく、後をついてきたようだった。

「それにありすちゃんの部屋なんて覗いちゃって、いやだなあ。」

「悪いがふざけてる暇はねぇ。総司、今いる幹部の連中を集めて、芹沢さんの部屋にこい!」

手短に指示を出し、土方は暗く長い廊下の中へと消えていった。

(頼む、ありすに何も起きていないでくれ。)

雷がどこかに落ちたようだった。
屯所内におどろおどろしい音が響き渡る。
それがあまりにも不気味だっので、その悪い予感が当たらぬように祈るしか土方にはできなかった。










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