刀剣乱舞 | ナノ

スマートにできない一期一振


「女人は浴衣を着るものです」

一期一振が真面目な顔でなんか言って来た。
甚平にうちわ片手のわたしは一瞬なにを言われたのか解らなかった。黙っていると聞こえていないと勘違いしたのか「女人は、浴衣を、着るもの、ですな」と言って来た。微妙に語尾を変えて来た、だと…

「…そっか、でもうち浴衣ないし…」
「そういうと思いましたので、我ら粟田口の方で一式ご用意させて頂きました。乱、信濃」
「呼ばれて飛び出る乱ちゃんだよ!」
「秘蔵っ子だよ大将!懐入って良いよね!」

パンっと白手袋の掌が渇いた音を立てると同時に、すぱーんっと襖が開いて乱と信濃が飛び出してきた。その手には愛らしい金魚模様の浴衣や帯が抱えられており、わたしはうげえという顔をした。そして信濃は耐え切れずわたしの胡坐の上に突っ込んで来た、いたい。

「マジかよ…引くわ〜」
「女人であるのに甚平を纏い胡坐を掻いているみわ殿に比べればましですな」
「どんだけだよ… ちょ、信濃。甚平伸びる、懐に頭突っ込むの止めて、ちょっと」
「みわちゃん、折角いち兄が呉服屋で5時間睨めっこしながら選らんだんだよ? ちょこっとでいいからさ、着て上げてよ」
「マジかよ」
「乱、必要のないことは口にしてはいけないよ」
「てへ みだれうっかり☆」

甚平の内紐を解き、すっぽりと足の間に収まった信濃を余所にわたしは抵抗を続けた。だが、じっと何を言うでもなく威圧的な雰囲気をまとって視線くれるだけの一期一振に、わたしは、折れるしかなかった。恐い、この執念が恐い。

「うへえ 暑そっ わたし浴衣とか着たこと無いよ」
「ご安心を、乱と信濃が良い様にします。任せるよ、二人とも」
「おっまかせあれ〜」
「まかっせてよいち兄!」



そうして出来上がったのは見事に浴衣に着られた審神者である。

「いや〜ん みわちゃんってばめっちゃくちゃかわいいよ!」
「うんうん いち兄の見立ては正しかったね! ほら大将、ぶすっとしないで笑って!」
「おながぐるじい˝」
「べつに何か食べたわけでもないに!」

そういう問題ではないのだよ信濃くん。
もうやだ脱ぎたい脱ぎたいとごねるわたしを、乱ちゃんと信濃くんがぐいぐいと引っ張っていく。縁に出ると、庇の下で一期一振が黄昏ていた。わたしたちに気づいて顔をあげると、何かを言おうとする。だが眸がかち合うと続きが消えた、一期は息を詰めて蜜色の目を見開く。

「どうどういち兄? みだれちゃいそう?」
「っ   乱、言葉を慎みなさい」
「ほらみろ、一期も微妙な顔してるじゃん。もう脱ごうよ、やめようよぉ」
「ダメだよ大将、もうちょっと我慢して!」
「そうだよみわちゃん! あ、ねえどうせならいち兄とデートしてきなよ!」

「はあ?」
「なっ」

乱は違う意味で顔をしかめたわたしたちを見て、にっこりと笑った。

「東の庭園の紫陽花がいま見ごろだって、歌仙さんが言ってたの。みわちゃん、紫陽花好きだよね?」
「マジか。好き、行く つっかけ下にあるかな」
「うわっ 大将、浴衣なんだから無茶な恰好しないで!」

「はあ、…まったく、」

帯の所為でうまく動かない身体でむりやり軒下を除き込もうとしたが、それはやさしく白い手に遮られた。「世話のかかる御仁だ」とどこかくすぐったい声が耳元できこえた。気づけば一期一振が近くにいて、そっと体を縁に戻された。そしてしゃがみ込むと沓脱石の上に朱塗りの下駄を一足揃えてくれる。

「さあ、お手を」
「…ん」

差し出されたそれに手を乗せれば、そっと引かれた。驚くほどスマートに下駄の上に足が滑る。一期一振の手をぎゅっとにぎって石から降りる。とんとつま先を叩くと木の音がした。

「では行って来るよ、二人とも片づけをお願いできるかな」
「まっかせてー」
「大将、楽しんで来てね!」

「 お、 おー…」

信濃から笠を受け取った一期一振が慣れた様子でパンと開く。そうして当たり前のようにわたしの上に…これ日傘か。

「参りましょう」

その言葉を断る理由は、もう見つからなかった。














「あー良い雰囲気なことで」
「いち兄デートに誘うためにいつもこんな面倒な事してるの?」
「察してあげなよ信濃。いち兄は素直じゃないの〜」
「ふーん… ま、ふたりが幸せそうならいっか」
「まったく不器用な兄を持つと、弟たちは苦労するよ」

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