刀剣乱舞 | ナノ

小狐丸が髪を整えてくれる


「みわさま、お手すきでございますか」

訪問者は小狐丸だった。コタツに入りながら仕事という惰性を続けていたみわは特に断る理由も見つからず、「どうぞ」と彼を部屋に招いた。音もなく襖を開いた大きな銀キツネは、柘榴色の瞳できょろきょろと室内を見渡した。

「…本日の近侍は、」
「鶯丸だよ、さっきお茶を淹れに行ったね。あれから30分が経とうとしている…」
「必要ならば、この小狐が今すぐに連れ戻しますが」
「いいよー、別にノルマが迫っている訳じゃないし。というか、そういう時は彼を近侍にしない」

そう言う時の近侍は仕事のノウハウを理解している初期刀の山姥切や、能率的に補佐してくれるへし切長谷部、薬研藤四郎辺りが常だ。だからといって鶯丸が能力的に彼らに劣るという訳ではない。だがしかし、どうしても彼はマイペースなところがあり、そういう切羽詰った状況下には向かないのだ。

「それで小狐丸はどうしたの、お茶淹れたげるからコタツにお入りな」
「ああ、小狐がいたしますゆえ。どうぞそのまま、」

立ち上がろうとしたみわの身体は、しかし、小狐丸に優しく戻されてしまった。大きな掌と、ワイルドな顔立ちに似合わない朗らかな微笑みに絆され、みわはではと小狐丸に全てを任せた。テキパキとみわの茶棚から必要なものを取り出す小狐丸の背を見ながら余談をひとつ。

うちの本丸には日本茶と紅茶の派閥があったりする。どちらも好みだと言う者達を省いて見れば、彼らは好みがきっぱりと別れているように思う。半端に手を出さないと言えば聞こえは良いのだろうか。例えば、粟田口紅茶派(粟田口率少数派)の一期一振は、紅茶を淹れさせたらパーフェクトだが、日本茶を淹れさせるとこれが飲めたもんじゃない。ほんと、吐くかと思った…。

そんな白黒ハッキリした男士の中で、小狐丸は日本茶寄りの飲めればどっちでも良い派(もっと言うと白湯が好き)だが、日本茶も紅茶も上手に淹れられる数少ない男士だ。ゆえに、みわも安心して茶を待つことができる。

「みわさまがお好きなアプリコットでございまする」
「わーい ありがとう、小狐丸」

紅茶の味は言わずもがな。
ほっと一息ついて小狐丸をみると、彼は橙色の羽織を纏い冬仕様の厚手の袴を纏っていた。その上に濃い墨色の上着を纏い、髪はそのままに遊ばせている。どこか高揚した頬と、タイミングを計っているような仕草。理由なんて知れている、みわは紅茶を置いて手を伸ばした。

「じゃあ美味しい紅茶のお駄賃だ、髪を梳こうか?」
「! いえ、みわさま」
「?」

何時もなら飛んでくる勢いでYESと応える小狐丸がゆるく首を振った。何かと首を傾げるみわに、小狐丸はどこかそわそわした様子で続ける。

「差出がましいことを承知で…。 もし駄賃を頂けるのなら、実はお願い事がございまして」
「なに?」
「…みわさま、本日はこの小狐めにみわ様の御髪を整えさせては頂きませぬか」

「え、そんなんでいいの? いいよ」

間を置かない軽い返事であったが、小狐丸はその返事にぱあと顔を明るめた。
そしてシュバッっと何処からともなく髪結いセットを取り出す小狐丸に、最初からそのつもりだったのかとみわはカラカラと笑った。

「みわさま、みわさま。 痛くはありませぬか」
「うん、大丈夫だよ」
「痒いところも? ああ、不愉快でしたらすぐに叱って下され。 お恥ずかしながら、こういうことには慣れておらぬのです」
「大丈夫大丈夫、小狐丸にされて嫌なことは何もないよ」

髪を梳いてくれる大きな指、時折あたる爪の鋭さも許せてしまう。
ゆるりと背に座る小狐丸に全てを委ねるみわの様子に、後ろから困ったような声が返ってきた。

「本当に。 みわさまは、小狐を喜ばせるのがお上手です」
「それほどでも」
「いえ、冗談ではなく。 小狐のぬし様は、みわさまだけ____ずっと、あなただけの愛狐でありたい」

きゅっと結ばれて、さらりと小狐丸の手が髪を梳いた。
かたいたこができた優しい手が大好きだ。まるで夢を見ているような心地で、みわは小さく「わたしもよ」と返した。ああ、…わたしはズルいなあ。

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