刀剣乱舞 | ナノ

へし切長谷部にひざまくらしてもらう


「だめだ、あつい」

ふらりと徐に立ち上がったみわは、それだけ言い残してばたんと倒れた。
あまりに躊躇のない転倒に、傍らで書類を分得していた長谷部もさっと顔を青くさせる。

「あ、主!」
「う、うぐう…長谷部、わたしはどうやらここまでのようだ…あとの事は、君に、たく、…がくっ」
「なにを縁起でもないことを言っているんですか。暑くて耐えられないのでしたら、そう言ってください」

困り顔で怒りながらも、長谷部はテキパキと慣れた手つきで扇風機を設置し弱風で起動させる。自身はうちわを手に持ち、そよそよとみわを扇いだ。

「大丈夫ですか?」
「むぐ、だいじょうぶじゃなぁーーい。長谷部ぇ、ひざまくらしてぇ」
「まったく…困った人だ、」

そう言いながらも、長谷部は情けない顔をしている主の前に正座し、すっと両手を差し出して見せた。

「ご随意にどうぞ」
「うわあああん、はせべぇええ」
(至福)

ぎゅううと腰に縋りついて膝に頬を寄せる嫋やかな存在に、長谷部はぐっと心の中で拳を握りしめた。
余程まいっているのだろう、うめき声をあげるみわの額にはじんわりと汗がにじんでいた。みわと同じく頑固な癖っ毛がぴょんぴょん跳ねて長谷部の膝を擽る。むず痒く思いながらも我慢して、そっとお慰めしようと手を伸ばしたが、ふと思いとどまる。

「…」

くるりと自分の手を見て、いそいそと白手袋を外す。二枚のそれを丁寧に折り合わせて最寄りの机に置いた。そうしてようやくみわの髪に触れる。絹を解くようにして梳いて、偶に指の腹で耳元を擽れば心地よさそうにみわの目が細まる。逆手で汗を拭い、額に纏わりつく髪を払って空気を含ませるように繰り返す。

部屋は静かで、扇風機の駆動音だけが響いていた。

「…主、髪を纏めては如何ですか?」
「髪…ああ、それいいかもね。いつもこのままだし…いっそのこと切るか」
「なりません。御髪はこのままで」
「神さまって髪長いの好きだよね、フェチなの?」
「ふぇち…ではないです、」

とかいいながら、まるで宝物を扱うように髪を梳くから説得力がない。
自分では自覚がないのだろう。うっとりとみわの黒髪を撫でる長谷部の顔は、心ここに在らずという風だ。みわにとっても、この行為にデメリットはない。人ならざる神をこの程度で虜にしておけるならそれに越したことはないし、なにより彼らは

(頭を撫でるのが異常に上手い)
「とりあえず、一つ結びでいいですか?」
「おーまかせしまーす」
「お任せあれ」

長い髪がするりと巻き上げられる。項に零れる髪を、長谷部の指が掬う。そのとき指先がくすぐったくて、びくりと震えてしまった。ヤバイ、変な反応をしてしまった。じわりと冷や汗をかくみわの上で、長谷部がくすりと笑った気がした。ただ言葉はなく、頭をぽんと数度撫でて髪をくるくると纏めてくれる。その優しさがすこしむず痒かった。

「できましたよ、主」
「おう」

起き上がると、首筋がとても涼しかった。頭の上から何かが下がっている感覚が面白くて、頭をゆらりと揺らすと肩口に黒い髪と一緒に赤い紐が落ちて来た。

「これ…」
「ああ、手ごろなものがなかったもので」
「?」

首を傾げるみわに、長谷部はどこかへらりと笑った。
その傍らに添えられた打刀から下緒が消えていることに気づかず、わたしは落ちてくるそれを指でなぞりながら首を傾げた。



「良くお似合いです、我が主」

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -