刀剣乱舞 | ナノ

鶴丸国永にめちゃくちゃ怒られる


「どうして一度言われたことが理解できない!!」

ぴしりと打つような言葉に全身が震えた。
鶴丸の金の目が鬼のそれのようになっていることが解るから顔もあげられない。じっと膝の上で拳を握り、ただただ泣かないように唇を噛むことしかできなかった。

「君は学習力が無さすぎる、前回のことも今回のことも…一歩間違えれば、大惨事になっていたところだぞ!」
「…」
「短刀の童どもと遊ぶなとは言わない。だが、もう少し自覚をもて! 君はただの人間で女で。俺たちのような付喪神で男ではないんだ。形が子どもとはいえ、その勢いに付きあっていたらその内もっと大きな怪我をするぞ!!」

決して、特別なことではなかったのだ。

みわは、人よりも気が抜けていて、少しだけケガが多い。
いったいどこでこさえて来たのかいう青あざや切り傷が何時も絶えないのだ。元々の性情なのか。痛みに鈍感であることもあり、自分ではあまりそういったことに気づかない。幼少の時よりのことだから気にも留めない。だが、…彼女に召喚された刀剣男士、こと鶴丸国永はそうではなかった。

最初は驚いて手当する程度ですんだ。だが、あまりにも消えない傷にいつしか眉を顰め、言葉をつぐみ。そうして、まるで睨むようにみわを監視するようになった。そうして怪我をするようなことがある度に、烈火のごとく怒る様になったのだ。その過保護ぶりは、光忠や薬研も舌を巻くほどで「でも悪いことではない」と苦笑する。…それほどに、みわは傷を負いやすく、鶴丸は正しい事をしていた。

(…こんかい、すこし注意力が散漫になったのは…鶴が、怖い顔しているから)

短刀たちと遊ぶのはいつものことだ。かけっこしたりするから、怪我だって当然する。でもある程度は黙認していてくれたはずだ。…今回のような、廃棄用に纏めて置いた鉄くずで足を裂くようなこと以外は。でもそれだって、鶴丸が睨むように監視しているからで。みわに責任はないはずだ。みわが人よりケガをしやすくて、運がないのは本丸のみなが知ったるところなのだから。

そこまで考えると、今回のことがどうしても理不尽に思えて…ぼろぼろと涙が落ちた。それでも嗚咽はあげまいと唇を噛めば、鶴丸が怒鳴り散らしていた言葉を少しだけ潜めた。

「…泣くのは、己の否を認めたからか」
「っ…」
「違うならなぜ泣くんだ。よもや、俺の説法が理不尽だと思ったわけではないよな」

そうだよ!悪いかよ!!

心ではそう思っても、口ではどうにも音にできない。それは…自分が悪いのだと、どこかでちゃんと理解しているからだ。

(鶴は悪くない、悪いのは…怒られる様なことをした、わたしだ)

ひくりとひゃっくりが出てしまった。どうにもこうにも情けない。心の関は、一度外れればもう元には戻れないのだ。隠していた嗚咽を上げて、小さく息を殺すように泣き始めたみわに、鶴丸は何も言わない。

暫くそうしていると、ゆるりと目の前で白い着物の膝が折れた。そうすると金の目が前髪の隙間から見えそうで、咄嗟に目をぎゅうとつむった。

「…反省しているか」
「___」
「どちらとも言わないか。…まったく、君は強情すぎる」

はあと、つかれた思い溜息に肩が震える。恐い、こわい。なにが?_____鶴に、呆れられてしまうことが…?

そんなみわの不安を余所に、鶴丸はどこにいくでもなくするりとみわの足を撫でた。それはケガをした部分で、いまはもう丁寧に治療が施されている。それは鶴丸が施したもので、薬研のくれた薬の効果もあり痛みはほとんどない。

「…俺の、言い方も…悪いんだろうと、解っているんだ」
「…つる…?」
「やり方だって、もっと上手い方法があるだろう。…でも、どうにも……」

くしゃりと骨ばった手が苛立たしげに月白の髪を掻いた。

「ッチ …あー…畜生。 おれは、」
「…」
「俺は、…そういうのが、得意ではない。 …ようで」

言葉が、焼けるように熱く、そして小さくなっていく。まるで炎のようだ。気づけばぱちりと目を開いて鶴丸の白い頭を見ていた。鶴丸はどうにも情けない様子でぐったりと俯いている…すっかり、立場が逆転していた。

「…つる?」
「………傷、いたむか」

今度は、しっかりと首を振った。見えていないはずなのに、鶴丸は「そうか」と掠れたこえで言った。

「頼むから…あまり傷を増やしてくれるな。君は俺たちとは根本から違うんだ」
「わ、かってる」

「解ってない。ならどうして怪我をこさえる     君の傷も、痛みも、…俺たちのように鉄と鋼で消えるものではないんだぞ」

吐き出す様な鶴丸の声は、まるでみわが感じていない傷の痛みを請負ったようなものだった。キレイな刀、美しいひと。とても豊かな感性と鋭い観察眼を持っていて、鶴丸の言葉と瞳は、何時もみわが知らない世界を教えてくれる。そこは眩くて、みわでは目が潰れてしまいそうになるけれど…鶴丸にはとても似合いの煌めきの世界。

「…ごめんなさい」

すべるように出て来た言葉は、いったい何に対する謝罪だったのだろう。
ぼたぼたと、思い出したように涙がこぼれた。ひとつふたつと数えて、それに気づいたように鶴丸が顔を上げる。そしてみわをみると、酷く困ったようにくしゃりと顔を歪めた。そうして「また泣くのか、君は」と言う。

「もう、どうすればいい。俺はいないほうが良いか、君には不要なものなのか」
「ううん ちが ちがうの ふぐ えぐ あ、 あの、 ちがうのぉぉぉ…うわ、あ あ」
「ああもう泣くな、目を擦るな。赤く腫れぼったくなる性質だろう、君は」

ぐしゃぐしゃに顔をぬぐっていた手を、鶴丸の手が浚っていく。そうして大きな親指が目尻をなぞり涙をぬぐう。右目と左目、そうしてなんどか払ったあと、ぺたりと頬にくっつけるようにして掌を寄せて来た。クリアになった視界で鶴丸をみれば、彼は難しい顔をしていた。でも金の目は…もう鬼のようではない。

「まったく…こまった主様だ」
「っ」

掌が優しく汗ばんだ前髪を払い、そうしてちゅうと口付てくれた。まるで親が子どもにするように、ひたすらに慈愛に満ちた優しいキスだった。

「あまり心配させてくれるな______寿命が縮む」
「ずっ …か、刀にも、あるの?」
「ッフ 言うと思ったぜ」

気づけば、ぎゅうと抱きしめられていた。鶴丸は地に跪いているのに、縁側に座ったわたしの顎はなんとか鶴丸の肩口に乗る程度で、ああこんなに大きいんだと思う。細くて儚いイメージのある人だけど、そうじゃないんだと識る。





「いっぱい泣いたから疲れたろう? ミツがきっと甘味のひとつこさえてくれてるさ、台所にでも顔をだそう」
「うん。鶴もいっぱい怒ったからお腹空いたでしょう」
「というか、喉が渇いたな。 明日、声ががらがらだったらみわの所為だぜ」
「じゃあわたしが傍にいてカンペもっていてあげる。そうすれば、誰とでも話せるよ」
「君が? 俺に?」
「うん」
「声が治るまでずうとかい?」
「うん」
「ハハ こりゃ驚いた!」

鶴丸が「痛むだろう」とわたしを抱き上げて歩いてくれる。その手には、鶴丸とわたしの鼻緒が揺れていて、大きいのと小さいのが寄り添うそれは、まるで仲良しの兄妹みたいだと。言えば鶴丸は、ただただ困ったように、嬉しそうに笑うのだ。

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