刀剣乱舞 | ナノ

へし切長谷部と燭台切光忠を探しまわる


「ヤバイ、わたし気付いちゃったかもしれない」
「どしたのみわさん、っていうかあんまオレの亀吉イジめないでね?」

初夏である。
夏である。

先日、あまりの暑さに本丸の雰囲気に合わないと封印していた現代服を封印から解いた。更に、ローテーションであった近侍を一新。夏らしい装いの男士で固めたことは記憶に新しい。

通販で大量購入したたまごアイスをちゅうちゅう吸いながら近侍・浦島虎徹の亀を裏返して腹を突くという遊びをしていた時にハッとした。同じくたまごアイス(スイカ味)を食べている甚平浦島が脇差片手に「成敗したら竜宮城いけるかなー」とボヤいて危うく審神者危機一髪だがそんな場合じゃない。わたしは亀吉をガシッと掴み仕事部屋である書院を飛び出した。

「いくぞカメソンくん! 犯人は台所にいる!!」
「ちょ、ちょっとみわさん!? 仕事は! 仕事してくれないとオレあとで小言もらうんだけど!」
「そんなことよりドーピングだ!」
「だれに!?」

ダッシュで逃亡すると浦島が「みわさーーーーん!」と切ない声で叫んだが気にしない。わたしはダッシュで台所に向かった。途中あたまにいた亀吉がいなくなっていることに気づいたが些細なことだ。

「光忠! 光忠はどこ!?」
「うをっなんだい突然…もっと雅な登場の仕方ができないのかい、きみは」

「うをっ」と驚いた男がなにを、と思ったが言うと返しがしつこいことは解っているので言わない。

台所には昼ごはんの仕度をしている歌仙兼定ひとりだった。簀子に下に放られているつっかけを適当に佩いて台所を見た渡すが、どうやら目的の人物はいないらしい。

「光忠がいない、なんという骨折り損。 あ、今日のお昼はそうめん?いいねーわたしそうめん大好き」
「光忠というのは、先日きみが『名前も胸板も暑苦しいから暫くわたしの前に顔を見せるな』と酷い言葉をかけたあの燭台切光忠のことかい? ちなみに暫く昼食はそうめんだよ、政府からお中元で大量に届いているからね」
「そう、その光忠。その後『僕だって好きでこんなデブったんじゃないもん!!』って泣き崩れた光忠はいずこ。 あ、とうもろこし茹でてる」
「前から思っていたのだけれど、きみのそのあまのじゃくな所はどうにかならないものかな。被害者ばかりが増えて困る」

歌仙の小言は右から左へ。大釜でぐつぐつ踊る黄色い房たちに心躍り、菜箸を取って突いた。もくもくたつ湯気が顔に当たって熱い。何時もの赤袴だったら悲鳴を上げていただろう熱さに目を瞑りながら、ショーパンにノースリーブに感謝感激である。ちらりと隣をみると、歌仙は何時も通り前髪をリボンで止めて、小袖と袴姿…物堅い事だ。

「つけあわせは何があるの?」
「麺汁は出汁ベースのものと、ゴマ味噌、豆乳を用意してあるよ。薬味に青ネギと大根おろし、梅、紫蘇、山椒、天かすを用意した。変わったところで、キムチとオクラも出そうかな。キムチ余ってるし、オクラは旬だしね」
「いいね。選び放題じゃん。おかずはとうもろこしだけ?」
「そういうと思って、すでに何品か用意してあるよ。蒸し鳥とクラゲの和え物、卵焼き、ひたしなすとトマト」
「もうやだ歌仙、結婚しよ」
「誰が好き好んで君なんかと」

ハンと鼻で嗤われたのでゲシっと足を蹴ったら、倍の力で踏みつけられた。このえせ雅、ぜったい許さない。

「配膳手伝うから呼んで。わたしデブ探して来る」
「光忠くんはきみとちがって繊細なんだから、その呼び方は止めてやりなよ。また癇癪を起して襖を全壊されたら堪らない」
「あれは嫌な事件だったね…」
「全部きみの余計なひと言が原因だけどね」
「とにかく配膳の時はよんで! 本丸のどこかにいるから!」
「どうやって呼べと」
「わからん! 打ち上げ花火とかで!」

わたしは走った。途中ですれ違った農業帰りの同田貫が「みわ、なんかあったのか?」と声をかけてくれたので「デブ捜索中!」とだけ返した。同田貫なっとくしてたから多分うちの本丸ではデブ=光忠が共通認識だ。

「とかいって光忠をさがしてたら長谷部はっけん! 長谷部!」
「っ〜〜〜〜はい! 長谷部はここです!みわ様の!第一の近侍は!ここにおります!!!」

「なんという変わり身の早さ」
「こりゃ驚いたぜ」

走りぬけようとした居間に知った影を見つけ、慌ててブレーキ。どたどたと襖の前に戻ると、ひしっと涙で顔をぐしゃぐしゃにしたへし切長谷部が腰にくっついてきた。どうしたのきみ。

見れば、中には夏用の袖の短い小袖を纏った鶴丸国永と御手杵がいた。二人がありえねーなんだったんだよさっきの苦労はよーっと愚痴をこぼしている。

「なんがあったさ。 っていうか長谷部、顔ぐしょぐしょじゃん。イケメン台無しよ、拭け拭け」
「うぐっず、ずびません…」
「長谷部をそうした君が良く言うな」

拭けというのにわたしの腰に回した手を緩める気配がないので、タンクトップの裾をひっぱって長谷部の顔を拭ってやってやる。その様子をみた鶴丸がごろんと畳の上に倒れ込みながら言う。

「わたしなんかしたっけ?」
「アンタがいきなり近侍をひっかえただろう。そこに自分の名前がなかったからって、魔王さんの打刀ひどく落ち込んでるのさ」
「メンタル激弱すぎるでしょ」

御手杵の解説にうげええと顔を歪めると、それに比例するように腰に回った腕が力を増した。苦しい、アイスが出る。

「___って、あれ。長谷部イメチェンした?」
「ぐず…え、あ、はい。…あの、以前の見目ではみわ様にご負担を与えるということでしたので…。季節にあったものを、調達いたしました」

そう、それがわたしが近侍をとっかけた理由だ。
前の近侍メンバー山姥切国広・へし切長谷部・平野藤四郎・堀川国広は、とにかく見目が暑苦しくて堪らないのだ。だが、いまの長谷部はそうではない。

暑苦しい紫苑色のカソックを脱ぎ捨てシャツ一枚姿となっている。シャツも半袖で普段見えない腕が顕になっている。常に禁欲的な服装をしていた長谷部だ。そうするだけで、随分と涼やかで…艶のある印象を受ける。有体にいえば

「いやらしいな!」
「い、いやっ…!?」
「もうちっとオブラートに包もうぜ、明け透けすぎるだろその感想」
「だっていやらしいじゃん!みて!長谷部の上腕二頭筋だよ、ちょ、かたっ…!なんだこれ!」
「あ、みわ様いけませんっ 仮にも神職の女人が、そのように男に触れられて! 間違いがあったらどうなさるおつもりですか!!」
「いやいや、間違いなんて起すなよ。アンタ一応、審神者の一の近侍名乗ってんだろ。自分からもみわの身を守れよ」
「最もだな御手杵。つーか、いくら神が生娘狂いと言っても、みわ相手に食指は動かんだろ。ひどい悪食だ、夏バテにもなるぜ」

ハンと鼻で嗤う鶴丸にかちんと来たが、長谷部は何時の間にか抜刀して制裁を加えてくれていたので良しとしよう。真剣白羽取り対決が繰り広げられているのを端目に、わたしはふむと頷く。…なんだか、騒ぎすぎて当初の目的とかどうでも良くなってきたな。

「で、みわはなにしに来たんだ。魔王さんの打刀を探してたんだろ」
「うん、そうなんだけど…なんかどうでも良くなってきた」
「また天邪鬼な。なにがしたかったんだ」
「あのね、気付いちゃったんだ」

寄って来た御手杵の手を掴み、いそいそと簀子の隅に小さくなる。そうして耳を傾けてくれる御手杵からは風呂場のソープの香りがした。心地よいそれにうっとりしながら、わたしはそっと内緒話を明かす。

「長谷部って____ぶっちゃけかなり短足じゃね?」
「……」

御手杵がそうと顔を上げて長谷部と鶴丸を見た。そしてそうと戻ってくる。

「…言われてみれば。下、短いな」
「でしょ。いやあ、あれだよ。短足だと足が速いっていう迷信はマジもんだった。機動オバケ長谷部の謎が解明されたよ〜」
「あーあの迷信な。…っていうか、じゃあなんで独眼竜の太刀を探してたんだ?」
「ん? ほら光忠足スッゲー長いから。隣立たせて比較しようかと」
「アンタ…ほんと傷口に塩塗ってくよな。やめてやれよ、さすがのあの男が不憫だ」

「えー」と不満気にいっていそいそ光忠探索に戻ろうとしたが、御手杵に「こら」と猫の子のように抱き上げられてしまった。そうして腕に座る様にして抱かれ「退屈なら相手してやるから、そういうのは止めとけ」と小言ひとつ。うーん、さすが我が本丸の良心。真面目だ。

そうしていると、遠くから浦島が「みつけたあああみわさんんんん!」と走ってきた。それにおうと応える背中で、ひゅるるるるるというへんな音がした。誘われるようにしてみると、雲一つない晴天にぱんっ!と花火が弾ける。まじでやりやがった、歌仙さん。





突然の花火にぼうぜんとしている2人をおいて、わたしがけらけら笑っていると。鶴丸を成敗しおえた長谷部が「みわ様、そちらにおいででしたか!」と慌てた様子で駆け寄って来た。こっちへどうぞ、こちらへきてくださいと言わんばかりにそわそわと腕を寄せてくる長谷部の頭を撫でながら、わたしは豪華な昼食に思いを馳せた。

「そうめんたのしみだな」
「? は、はい。主が楽しみなら、俺も楽しみです」

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