刀剣乱舞 | ナノ

骨喰藤四郎と三日月宗近の苦心


「つぎ唇にキズをつけたら、ひとつにひとつ。俺が口吸いをしようか」

三日月宗近がキレた。
嫋やかに微笑みの裏に、否と言わせぬ圧を匂わせる三日月にみわはガクブルしながら視線を書類へと戻した。その様子が哀れで、骨喰藤四郎はそっとリップクリームを手渡した。みわの唇からは新しい血が浮かび上がっていた。

苛々すると唇を噛んでしまう。皮を捲って、傷をつくってしまう。これは癖なのだと思う、無意識に唇に触っていると「ダメですよ」「まあた触ってるな」「アメでも舐めて落ち着いてください」と皆がフォローする。みわはありがとうと笑うが、癖と言うのはそうそう治るものではなくて。

「みわ」
「あ、」

先ほど、戦果を報告しに来た三日月の言葉を忘れて。すぐに唇を噛もうとしたみわに、言葉をかける。空をうろつく手が、ぱたんとテーブルに落ちて。「…ごめん」と力ない声が落ちた。

「わたし、苛々するといつもこうで」
「知っている。書類仕事は嫌いか」
「うん、というか…」

ちらりと、みわが映像端末を確認する。そこには同僚の審神者や支部統轄、様々な相手が並び常にチャットでコミュニケーションをとっているのだという。

「ほんと、これがストレス」
「細かい伝達と情報の整理は得意分野だろう」
「得意と好き嫌いは別だよ、はあもう… 一人でいたいから審神者になったのに」

これじゃあ現実社会と何も変わらないよ。ぐでんと畳の上に倒れたみわに、骨喰は何も言えなかった。勢いで落ちた書類を集めながら、こういう時兄弟ならどうするだろうと思った。

「…休憩にしよう」
「え」
「休憩だ、今の主にはそれが必要だと思う」

みわが応えるより先に、ぱちんと端末の終了ボタンを押してしまう。映像端末が途切れ、起動音が静かになった執務室。呆然とするみわを置いて、骨喰は掛けていた上着を羽織り、脇差しを下げた。

「行こう、庭を散歩でもしよう。少しの間なら何も言われない、…何か言われても、俺の所為にすれば良い」
「し、しないよ」
「ああ、知っている」

主はそういう人だ。乾いたみわの手を取って、握り締める。少し強引に引っ張れば、みわの腰はようやくイスから離れた。その日は庭園を少しだけ散策して、残った仕事は長谷部にも協力してもらって捌いた。

ちなみに三日後、みわは三日月宗近により熱い(怒りの)口づけを受けていた。呼吸すら奪われている彼女を見ながら、世は儘ならないことばかりだなと骨喰は他人事のように思った。ちなみに鯰尾はその後ろで顔を真っ赤にしていた。

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