刀剣乱舞 | ナノ

付喪神になれない本丸があるんだって


「俺の名は三日月むねちk」
「ぎゃああああああああああああああああああ」

言葉を遮られた。それも、とんでもない叫声に。
キィンと眩む刀生初の耳鳴りに三日月宗近が身体を揺らす中、叫び声の主は顔を真っ青にして鍛刀場を駆けまわっていた。

「きたああきちゃたあああいやああああ」

ふむ、これはきっと俺が来て狂喜乱舞しているのに違いない。

三日月宗近は少し可笑しかった。生まれて間もない筈だが、彼の根っこには自分と言うものに対する絶対的な自信と矜持があった。千年の歴史に裏付けされた評価は、誰にも彼を傲慢などと呼びはしない。彼は然るべきして、打たれた刀だった。

だから、

右往左往した挙句に、「清めろぉおお」と荒塩を撒かれ。「静まりたまえええ鎮まりたまええええ」と幣を速急で振られ。「お前、それ供養の経だぞ」と近侍に引かれても読経を続けられ。「荒御霊よどうぞ全なる母の身元に御帰りくださいアーメン!」「それはキリスト教でございまする!」十字架やら九字やらを切られ。


「お粗末様でした!」

スパンッ______と、白木で誂えた神殿にひとくちで放られても。

「ふむ  …余程、俺が来て嬉しいと見える」

そう言って、ほけほけと笑うくらいに。



三日月宗近は、少し可笑しかった。





「ひとーつっ本丸に黒(ブラック)の一文字まじきこと!」

びしっと竹箒がお天道様を突き刺した。
縁側に集まった一軍所属の刀剣男士は、各々好き勝手に寛ぎながら「ああ、また始まった」と呆れ顔でみわを見た。そんな中、大和守安定がひょいと手を上げた。

「ふたーつ」
「ふたーっつ!神隠しを許さず!」
「みーつ」
「みーっつ!刀剣様の呪いを買うべからず!」
「よーん」
「よーっつ!勝手に出陣・遠征・演習・刀解しべからず!」
「ごーーーー」
「いつつーーっつ!任期終了後の安全安泰な生活! そのために今日も今日とて、レア太刀・大太刀・短刀その他諸々呪いに定評がある男士さまたちの関心・興味・お怒りを駆らぬようにはりきっていきましょーーー!」

うおおおおっと太陽に吼えるみわも慣れたもので、縁側に座る刀剣男士の中に今更みわの奇行に口を挟むものはいない。言うなれば、唯一大和守安定が「おー」と気だるげに手を振っている位だ。つまりその程度なのだ。

「…そんな本丸法度を忠実に守って来てくれた皆さんに、大変。大変申しにくいのですが、今朝、政府から通達されている日課ノルマの鍛刀中に悲劇が起こりました」
「今朝の近侍は誰だ」
「俺だ」
「タヌキ君かぁ〜タヌキ君なにしでかしたの?」
「タヌキいうな」

蜂須賀虎徹の言葉に、同田貫正国が応える。だが、それに大和守安定が茶々を入れ、同田貫が横に添えていた太刀で鳴狐越しに安定を殴ろうとする。だが悲しきかな機動の差で及ばず、鳴狐が迷惑そうに身体を捻らせるだけに終わった。その様子を見て、みわがカッっと目を見開いた。

「はいそこお!いちゃいちゃしない!!」
「どうしたそう見える」
「自分が独り身の欲求不満だからって僕たちで妄想しないでよ、このビッチ。みわビッチ」
「こういう時は、サノバビッチと言うらしいよ」
「さ、さのば…び、」
「『貴女は最高の女性だ』という意味さ、愛染くん。海外ドラマの字幕がそう言っていた」
「さらっと愛染くんに嘘おしえんじゃねぇぞ金ぴか。っていうかそのドラマわたしがTUSHIYAで借りてきたやつだよね?昨日なくなってめっちゃさがしたんだけど」
「じゃあみわはさのばびっちだな!」
「愛 染 く ん !」

キラキラ笑顔で止めを刺して来る愛染国俊に、みわはこの世の全ての不幸を背負ったような顔で崩れ落ちた。それを見て安定がゲラゲラ笑っていた。奴も昨日のDVD拉致の反抗グループ確定である。

「…まあ、俺は大体知っているけど」
「その通りでございまする!鳴狐とわたくしめは昨日の近侍当番ゆえ、鍛刀の場には居合わせていたのでございますぐきゃん」
「へえ。じゃああそこの鈍間なみわに代わってとっとと事情を説明してよ。オラオラどうした、何時も首を落としてやりたいくらいに饒舌な舌がお留守だぞ」
「安定、止めて。イジメよくない」

もふりとした尻尾を安定にわし掴まれ、ぶら下げられてピクピクと痙攣している鳴狐のキツネ。それをぶんぶんと容赦なく揺さぶる安定に、流石に鳴狐が静止を呼びかけた。というか、

「君たちさては…わたしの話を聞く気が無いな」
「俺は聞いてるぜ!」
「なにを今更…」
「何時ものことだろ」
「あ、ちょっと扇風機みたいで涼しい」
「安定、ほんとやめて。死んじゃう、俺の分身しんじゃう」

あ、これ追及したら自分がダメージ受けるやつだ。
ぶんぶんと尻尾を掴んでキツネを回している安定の笑い声をバックに、みわは何度目かになる溜め息をついた。そして独り言のように話題の口を切る。

「えーっと、本題ですが。今朝、第一級危険物の中でも極まりに極まった危険物、長年我が本丸でもその存在が危惧されてい指名手配犯、………三日月宗近が鍛刀されてやがりましたでござりまする」
「おや、おめでとう。めでたいじゃないか」

みわの報告に、ぱんと蜂須賀が手を叩く。
それもそのはずだろう。歴史改修主義者との大局番『千年戦争』が刀剣男士率いる審神者軍の勝利に終り幾星霜。束の間の平和も虚しく、新しい検非違使という姿なき天敵を得てしまった審神者たちは、その数を大幅に減らしている。元より、歴史改修主義者と戦うべくして生まれた刀剣男士もその数を減らし、今では鍛刀が『失敗』するという異例の事態が尋常となっている。全体数が確実に減っている中で、男士の中でも段違いの神格に在る刀剣。語るものこそおおけれど、実際に目にした者は指折り数えるほどとまで言われるレア太刀・三日月宗近を入手できたといえばかなりの大事だ。

本来なら、舞い上がって三日三晩宴をしても良いだろう。だがしかし、それは蜂須賀の審神者が………みわが極度のビビリでない場合に限る。

「おい、回想してる間にみわがマナーモードになってるが。ありゃあ大丈夫か」
「ああ、駄目だね」

淡々と問いかけてくる同田貫に、蜂須賀はどこか遠い目で応える。心配そうに愛染が駆け寄る先で、みわがマナーモード宜しくガタガタと震えていた。そのまま土を掘って潜ってしまいそうな勢いだ。

「だ、大丈夫かよみわ!」
「き、きにしないでででで」
「なんか言葉が変だぞ」
「え、みわが変なのは元からでしょう?}

ケロッと安定が言う。キツネは飽きたらしく、鳴狐がキツネの前で崩れ落ちている。どううやら、手遅れだったらしい。

「みみ、みななななさまにはご迷惑をおおおおかけいたしますがああああごぶふ!」
「聞き取りずらい」
「みわ――!」

安定の主従平等パンチが飛んできたため、普通に喋ります。

「えっと、つまりですね。いま三日月宗近さまは、神殿で霊力抜きをしてもらっています。もうすぐしたら太刀に戻るので、そしたら何時もの神寝殿に奉ります。そして現実から目を背け、何もなかったかのように日常に戻る予定ですので、何卒ご協力をお願いいたします候」
「んだよ 結局いつもと同じじゃねーか」

べったりと土の上で土下座をするみわに、同田貫が言う。それに、皆が「そうだなー」と返事をする中。みわは額に土をつけながらぼんやりと思う。みわが『審神者』となって、四年が経過した。


審神者という職業は、その技能ゆえにいろいろと例のない契約条件の下にある。
その一つが、任期である。任期は、審神者が望んだ場合を除き、基本的に順守とされる。期間は五年、五年勤め上げれば審神者は役を降ろして貰えるのだ。

だが、ここには幾つかの不文律の制約が存在する。

それは結果として「神隠し」「呪い」「荒御霊」という言葉で語られていた。刀剣男士と呼ばれる模造兵士は、量産可能であり姿形が同じものが複数存在するために、愛玩と勘違いする輩が多いが……あれは、付喪神。いくら主従の契約を交わしているとはいえ、その根本は高天原の天津神に通ずる『神』の一柱なのである。

その本質は傲慢にして冷酷。

気に入れなければ呪うし、意見を無碍にされれば殺すし、大事にされれば……それを愛と違えて帰してくれない。現世に決して戻しやしない。

こういった、審神者の身に起こった刀剣男士による被害は、例年数を増している。審神者になれば隠される、それが審神者と言う職業のレッテルになりそうなほどに。審神者と、審神者に関わる人たちはみな、なんらかの被害を受けているのだ。

ゆえに、審神者としての微々たる才能を理由に、本丸…未来でも過去でもない異空間に閉じ込められた彼女は、刀剣男士を畏れる。政府を怖れる。小さく無力な一般人の少女にとって、それらはまるで鬼が島からやってきた化物も当然だった。恐い、恐いから逆らえない。だから従順でいるしかない。だから、



みわは、刀剣を手にしても付喪神として降ろさないことを選んだ。



火がないところに煙はたたない。出ると解っている杭ならば、最初から抜いておけば良い。だが、政府からのノルマがあるために誰も顕現させないというわけにはいかない。みわは審神者のみが入場できる掲示板『とうらぶちゃんねる』から情報を集め、神隠しや呪いの例に名があがることが少ない刀剣男士を付喪神として降ろした。そうして、被害件数の多い刀剣男士は、その身を織りなす霊力を抜き本体へと戻し______神寝殿という本丸の一角に、ご神体として祭上げることを選んだのだ。

結果は上々だと言えよう。

同期の審神者の9割が消息不明となる中、彼女はこうして五体満足で生きている。政府から特別勧告があるわけでもなく、日々怖れながらだがどうにかやっていけている。

(あと一年……あと一年…)

そうすれば、こんなところとはおさらばできる。





『______ふむ』

「は、蜂須賀さんっそーっとですよ。そーーーーーーーーーっと!」
「はいはい解っているよ…あ、」
「蜂須賀ぁぁあああああああああああああ!」

よもや、そうそうに本体に戻されるとは思わなんだ。

うっかり刀剣・三日月宗近の刀装をひぱってしまった蜂須賀虎徹、そしてそんなうっかりが閻魔の怒りに触れたかのように真っ青な顔で絶叫する少女…みわ。その二人を、不可視の神霊と化した三日月がふむと見据える。

(よもやこれほど早く実体化が解かれるとは…前に降りた時は、それでも幾分は持ったはず。審神者の質が落ちているというわけではないだろう____この室に、からくりがあるのか)

もう少し見分を続けていたかったが、それは蜂須賀に抱えられた本体が部屋から出て行ってしまったので適わなかった。続けて部屋を出ると、みわが幣を振りながら祝詞を謳っていた。崇敬の詩と伴に贈られてくる霊力が心地よく、三日月はほっこりとほほ笑んだ。

『うむ、よきかな』

(祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください。祟らないでください…!!!)
(……なんて思ってるんだろうなあ、難儀な子だ)

言葉と言うコミュニケーションが介在できず、かるく混沌とした三者三様の図ができあがっていたが。悲しきかな、それにツッコミをいれる誰かもいなかった。

「というか、神寝殿に行くだけだろう。ここまで仰々しくする必要はないのでは」
「念には念を!油断せずに行こう!!!」
「もう好きにしてくれ」

カッと目を見開いて言うみわに、蜂須賀は諦めたように溜息をついた。なまじ初期刀がゆえの慣れとは、怖ろしいものだ。

「あ、きたきた」
「安定くん」
「みわ、言われたの持って来たぜ! 祀り道具!」
「愛染くん、ありがとー」
『むう、これは太刀掛けか。それに米と塩と……おお、これは酒か! うむ、よきかなよきかな』

愛染と安定が抱えていたものを、指でひいふうと数えながら三日月は笑った。その向うで、ぴっちり閉じられた板戸から『ハッ…兄上の匂いがする!兄上!貴方の可愛い小狐はここでございまする!兄上!兄上ぇえええ!』『ちょ、また小狐丸が幻覚相手に暴走しだしたんだけど。煩いから止めてよ三条さん〜』『あれば私の管轄外だ』『まったく小狐丸さんには困ったものだよね』『いや、堀川くんもいずみん来るまで同じ様なもn』『兄弟っシッ』というなんとも元気な声と、どんどんどんどんという壁ドンポルターガイストが怒っているが、戦慄しているのはみわだけだった。

「の、呪いが…お怒りが…」
「はい開けるよ、どーんっ」
「安定くん!!!?」

『___あ、』
『おお、』

安定が板戸を開けると、三日月の目の前にふんわりとした質の良い髪がふわりと舞って見えた。鮮やかな橙の衣に、真っ赤な瞳。今にも泣き崩れそうな顔には、三日月の知る面影が良くそぐう。

『おお…! これは驚いた、もしや小狐m』
『あにうえええええええええええ!』
「ぎゃあああああああ!」

「あ、みわが見えない何かに庭まで放り投げられたね」
「みわ―――!」

ちなみに、神霊化している刀剣男士は、顕現している刀剣男士には視えない。そこにいるなーああーいるいる程度の認知が精々だ。それも、みわが意図的にその程度の霊力しか配分していないことに由来するのだが…

『あに、あにうえっお会いしとうございました!小狐丸はさびしゅうてさびしゅうてっ』
『おお、そうかそうか。寂しい思いをさせてすまなんだなぁ、なあにこれからは一緒だ。また幼い頃のように髪を梳いてやろうぞ』
『きゅーーーーんっあにうええええええ!』

「ぐぶっくるし、おも、おもい!おしつぶされる…!」
「まあ、自業自得だよね。放っておけばいいよ、愛染くん」

言い切った蜂須賀だが、本丸唯一の良心である愛染はそこまで割り切れないらしい。「そんなわけにもいかないだろ!」といって、見えない何かから必死にみわを救出する愛染。対して、安定は騒ぎもどこに吹く風でとっとと神寝殿で準備を始めていた。

「やっほー加州清光。げんき?相変わらずブサイクだね」
『ちょっと刀しか見えてないくせに勝手なこと言わないでくれる。主が俺のことブサイクな付喪神だと勘違いしたらどうするのさ』
「アハハハ!メルヘンブス!」
『なに感じ取ってんだよこの電波!』

「よっ蛍!寝てるところうるさくしちまって悪いなあ」
『別に寝てないって。何時も言ってるのに、国俊は物覚えがわるいなあ。そんなんで僕がいなくて平気なの?』
「すぐに終わるからもうちっと我慢してくれ!」
『あ、  あーもう、もうちょっとお話ししてくれてもいいじゃん、ばか』
『はいはい、拗ねないの蛍ちゃ〜ん。お姉さんたちがお話ししてあげるから!』
『酒臭いオカマはやだ』
『ひどい!』
『わりと自業自得ですよ、次郎…』

「刀はここでいいかい?」
「は、はい…三条の刀なので、石切丸様と小狐丸様の間に。うわっそーっと!そーっとですよ!」
「はいはい」

『おお、兄上も来ていたか。岩融に今剣も、おお、我が三条の同胞が皆揃っているとは。重畳、重畳』
『私たちも同じ気持ちだよ、三日月』
『はーいっぼくいちばんはやかったんですよー!えっへん!』
『ふははっ俺はその次よ』
『兄上…兄上、ハァハァハァ兄上いいにおい…!』
『狐丸きもちわるいです』
『俺もいるぜ!久方ぶりだな三日月!五条の鶴丸だぜ!』
『兄上に近づくな下賎な蛆虫め!!』
『ア˝…?』
『あ、鶴さんが切れた。どうしよう加羅ちゃん』
『ほっとく』

太刀掛に三日月宗近を奉る。その前に三方が置かれ、器に盛られた神饌が供えられた。左右に瓶子に活けられた玉串を添える。

「これで、よし」
「で、どうするんだい。もののついでだ、今朝の予定も報告していくかい」
「もののついでというと言葉的に悪いので、それを目的に来たという体で扉の前からやり直します」
「みわ…それ面倒じゃねぇか?」
「あ、愛染くんはここにいていいよ。わたしだけやりなおす。ほら、わたしだけ人間だし。皆さんとは違う下の者なので」
「さっきまで雑用に使ってたくせに良く言うよ」
「シャラップ安定くん」

そういってそそくさと神寝殿から出て行くみわ。その後ろ姿をじっと三日月は見つめていた。その視線に気づいた小狐丸が、腰に巻きつけていた腕を放してうねる様に言った。

『兄上、よもやあの女になにか不貞を』
『ん? まさか、それどころか丁重にもてなされたぞ。俺に祝詞もくれたし、今し方酒ももらった』
『それならば良いですが…』

しゅんとふかふかの髪をしおらせる小狐丸に、三日月が不思議そうに瞳の月を傾けた。それに返したのは、傍らにいた石切丸だった。

『ここは良い場所だよ。審神者の霊力は清らかで心地よい、』
『おお!そうかそうか、それは重畳。審神者とはその身に宿る魂の質こそがものを言う。神剣足る兄上の太鼓判があるというなら、その存在は箔付きであろう。俺達も憂いなく戦場へと赴ける』
『……それは、すこし難しいかもしれないね』

朗らかに笑う三日月に石切丸は渋い顔で応えた。その意味が汲み取れず、はてと三日月は瞬きをし、その柔い肩に腕を回した小狐丸は憎々しいと舌打ちをした。

『人間の分際で誠厚かましいことよ』
『ん?』
『まあそういうな小狐丸よ。三日月はこの本丸に来たばかり、不安にさせるのはお前も本意ではなかろう』
『そうですよーすぐになれます!ここ、いごこちはとーってもいいんですよ!』

ぽふんっと抱き着いて来た今剣を受け止め、三日月は『そうか』と返した。そうこうしている内に、改めて入室して来たみわが神前の礼を済まし、なにやら白い折り紙を取り出た。たどたどしくも確りと『本日の予定』と書かれていた。

『退け』
『いやです』
『兄上が減るだろう!』
『へらないですよ!』

「_____本日の刀剣男士の予定。7時、緊急ミーティング。8時朝食、メニューは白米・味噌汁・沢庵・ホウレン草の胡麻和え・卵焼き(出汁)大根おろし添え・焼きしゃけ・納豆・温卵・大根の煮物です。デザートには抹茶プリンをご用意しました。9時より、三日月宗近さまの神寝殿へのお移り。終わり次第、内番を開始。本日の担当は以下の通りです。畑当番、同田貫・鳴狐さま。馬当番、安定・愛染さま。審神者当番(近侍)、蜂須賀さまとなります。昼は12時30分を予定、本日はカレーの予定です。14時より織豊・越前に隊長・蜂須賀さまを据え出陣。16時帰還予定です。その後、入浴・休憩を挟み、頃合いを見て夕餉となります。メニューは、戦果報告の折にお伝えします。本日の鍛刀・刀解・遠征・演習の予定はありません。今日も1日、皆さまが心置きなくお過ごしになれるよう、精神誠意勤めさせて頂きますゆえ、何卒宜しくお願い致します」

そうしめくくり、深々と辞儀をしたみわに、三日月はぱちくりと瞬きをした。小狐丸は舌打ちした。

「……毎回思うんだけど、朝食のメニューって報告にいる?多分だれも興味ないと思うよ」
『え、僕あるよ!すっごいある、ねえ加羅ちゃん!』
『たぶんお前だけだ』

「いや、報告しないと手入れだけで飯を与えないブラック審神者だと思われちゃうでしょう?」
「思わないよ。いったい君はなにと戦ってるんだ」
「常に己の疑心暗鬼と戦っている。…思い込みって怖い、世論や世間様の目も恐い…」
「それってもう引きこもるしかないじゃん。死んだほうが楽なんじゃない?」
『お前なにいってるの!?主になにいってんの!このバカ!ブス!』
「引きこもりのネクラなのでその程度の雑言八倒は慣れたものです。はい!では審神者のわたしは長い禁物ということで退室させて頂きます、どうぞみなさんご歓談をお楽しみください!では!」
「あ、待てよみわっ俺もいく!」
「やれやれ…」

ずざあっと神寝殿から出たみわが深々と礼をしたあと、普段のどんくささからは想像もつかない機動でどこかに消えた。愛染が慌てた様子でその後を追い、蜂須賀・安定もそれに続く。安定が最後に加州清光の三方から酒をくすねた。

「見つけた時の反応が楽しみ」
「みわの場合、本気で心臓麻痺になりかねないから後で戻しておきなよ」
『_____それって俺が間接死因じゃん!!?』

『かえせ!かせよおおお!主に嫌われたくないいいい』という加州清光の叫びは、無情にも閉じられた板戸に阻まれて届かない。結局、審神者が知らない安定のイタズラよりも、彼がカリカリと板戸を掻く不吉な音の方がみわのSAN値を直接に削り、死因とはいかぬも異常なストレスとなって胃痛というダメージを引き起こしたことを彼はしらない。

いや、知らないほうが幸せなのかもしれない。
このみわが用意した小さな鳥かごの中では。




『______まったく、退屈で死にそうだぜ』

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