刀剣乱舞 | ナノ

長谷部にゃんこはかわい……くない!


「あ、やっべ」

戦歴を整理している途中、そんなこんのすけの声が聞こえて来た。
聴きたくなかった、とても聞きたくなかった。じとりとそちらを見やれば、後ろ足を上げて間抜けな恰好で毛づくろいをしていたキツネ型ロボットがゆるりとわたしを見た。その顔には『わたしが犯人です』と書いてあるようだった。

「すみません審神者様。このこんのすけ、またもやうっかりやってしまったようです。甲張り強くして家を押し倒すとは良く言ったものですね」
「ちゃっかり良い話に持ってこうとしないで。で、なにをしてくださったの?」
「いや、こんのすけは常々思っていたのですが、審神者様は実に優秀な審神者でございます。ですが優秀がゆえにこれといって面白味がたりないので、こんのすけが日常にちょっとしたスパイスを」
「人生なんだから常に面白くないのは当たりまえだろ、ちょっと頭冷やせ」
「それは!ねっとう!」

火鉢の上から薬缶を取ってこんのすけ氏の頭にぶっかけようと思ったのが、失敗した。ざっと部屋の隅に避難してしまった黄色いモフモフに『何時かその顔の緋化粧を全部綺麗に落としてやる、ただし熱湯でな!』とメンチを切って、薬缶を戻す。こんのすけ氏は後ろでがくがくと戦慄していた。どうやらわたしの心のメッセージは確り届いたらしい。

「で、なにしたの」
「いや、……どうにもわたしの本丸の刀剣男士たちは内気というか我慢強いと思いませんか」
「頑張り屋だとは思う。あと、何時君の本丸になったんだ」
「ここまで来ると修行…いやストイック…いえ、マリッジブルーですぞ!」
「そしていつ結婚したんだ」
「審神者様がです!」
「はあ……またわけのわからn」

「………え」

あ、いやな予感。
こんのすけ氏と一緒に声をする方へと視線を寄せると、何時の間にか小書院の襖を開いていたへし切長谷部が不自然な恰好で硬直していた。そしてなぜか頭に獣の耳が生えていた。とりあえず後ろで「マーベラス!」と叫んでいるキツネは、あとできつねうどんの刑に処そうと思う。敵が身内にいるってキツいなぁ……。

「…一応断っておくと、」
「っ、 は、はい!」
「…まだ未婚の身です。あれはこんのすけが勝手に喚いていただけだから、勘違いしないように」

「かん……ちがい……」

独り言のように長谷部が呟いた。
先ほどまで顔は紙のように白く、藤桔梗の瞳がぐらぐらと揺れているように見えたが。そうして何度か同じ様に呟く度に、元の血色に戻って来た。最後には強張っていた尻尾と耳をへにゃんと垂れ下げて、ふるふる震えてぼんっと真っ赤に染め上った。あ、これはかわいい。

「もっ____申し訳ありませんっ主! 従者の分際で、主の身上に口を出すなどですぎた真似をっ」
「いや、気にしなくて良いですよ。そんなできた人間でもないですし、気になることがあるならむしろ訊いて下さい。その方がフランクで好きです」

ザ・土下座する長谷部につらつらとそんなことを言うが、わたしの興味関心は全て彼の頭とお尻に釘づけだ。長谷部の飴色の髪と同じ色の耳、綺麗な三角形であるところを見るにネコ耳だろうか。短毛種と見た。ゆらりと長い尻尾はなぜか、くるんと内側に包まってしまっているのが惜しい。くそ、揺れろ!ゆれろ!尻尾揺らしている長谷部がみたい!

「…で、は、ひとつお伺いしても宜しいでしょうか」
「なんですか」
「…………主は、未来に…思い残してきた方がいらっしゃいますか?」
「家族以外はいません」

なんだそんなことか。どんな質問が来るかと身構えて損した。
僅かな安堵で溜息をついた瞬間、目の前でぴんっと尻尾が立った。く、クララが…!じゃなくて、長谷部の尻尾がたった!

「そう、ですか…詰まらないことをお聞きして申し訳ありません」
「べつに…」
「あ、主、お茶を淹れてまいりました。ご一服されては如何でしょうか」
「そうッスね」

「俺もあとで手伝います」とウキウキした様子で茶の準備をしてくれる長谷部には悪いが正直その後ろで大きく振れている尻尾にしか目がいかない。やべえちょうかわいい。わたしはどちらかというと犬派なのだが、これは猫ブームきたかもしれない。長谷部×にゃんこ!

「はせっさん。ちょっと、ちょっと『にゃー』って言って見て。お願い」
「? にゃー ですか?」
「ありがとうございます!!!」
「あるじお気をたしかに!!」

感極まって思い切り文台に頭ぶつけちゃった。長谷部が真っ青になってアタフタしたが「大丈夫」と制止を呼びかける。とりあえず貰った茶を飲んだ。茶といっても、わたしは紅茶難民なので、持つのは湯飲みではなくティーカップ。優雅な午後ティーのお時間だ。

「そういえばこの前…うぐっちゃんと緑茶か紅茶かで論争したよ。最終的に太刀勢による『あなたは緑茶派?紅茶派?飲めればなんでも良い派?〜譲れない午後の一服、明日の茶請けを決めるのはどっちだ〜』に発展したんだ。結局、審神者が本丸の頂点だと言う事で強制的に茶請けはシフォンケーキになったんだけど」
「わかりました。緑茶派と飲めればなんでも良い派は、明日までに手打ちにしておきます」

ピッと親指で首を斬るあたり、長谷部はあの元うつけ者の愛刀だなぁと実感する。というか誰がどの派かも解らないのにどうやって太刀勢を見分けるんだろう。とりあえず審神者なので「人手がなくなるのは困るなあ」とだけ言って置いた。

「ならまたの機会にいたしましょう。馬車馬のように扱使い、ボロ雑巾以下の廃棄物になったら俺が首を刎ねます」
「とりあえず斬首から離れようか。太刀勢の救済ルートが迷子になってる」

カップに添えてあったチョコレートの銀紙を外し、口の中に放り込む。その間にも、長谷部はせっせと動いてくれている。放っておいた処理済の記録を棚に戻し、本部に転送する手紙やら書類を分類分けする。手際が良いことだと感心してい……あ、これじゃ何時も通りの午後の一コマだ。

(ダメだ…刀が擬人化するという在りえない現実を見てからというもの、目の前で起こる現象に対する新鮮味というものをまるで感じなくなってしまっている…)

これだからこんのすけ氏にマレッジブルーなど、今期のつまらない本丸No3には確実とか言われるんだ。そうだなあ、こういうのはやっぱり審神者であるわたしから積極的に関わったり、驚いたり、火に油を注いで大火事大地震にしていかないといけないんだよな。

「よし。はせっさん」
「はい」
「いま自分の頭についているものについてどうおもう」
「…あた、ま」

ずばんっと訊くと、長谷部がきょとんとした後、手でぽすんと頭を摩った。そしてクエスチョンマークを沢山飛ばしながら「何のことでしょうか」と申し訳なさそうに訊いて来た。

「そうか、見えないのか。そういう設定なのか、こんのすけ氏」
「まさか政府のキツネがなにか粗相を」
「いや、何時の間にか尻尾捲って逃げたキツネに興味はない。ただし、きつねうどんの刑不可避だ。よしっいくぞはせっさん!」
「はい! キツネを手打ちにするのですね!!」
「ちがうけど返事や良し!」

いくぞ!と襖をぱーーーんっあけると、長谷目も「はい!」と元気よく着いて来てくれる。この子のこういうとこ本当にスキだわー。あんまりネコ好きじゃないけど、長谷部は行動は犬っぽいから自然と嫌な感じを受けないのかな。うわあ、一度で二度おいしいとかステキだなあ。長谷部にゃんは約得だなあ。

「ネコ…というと、藤四郎兄弟は皆ネコ科なイメージだなあ」
「? 藤四郎兄弟がネコ、とは________ハッ!」

その時、長谷部に電撃が走る。

長谷部は今の主を大層敬愛していた。その言葉は千の音色よりも煌びやかで、その知識は神代の業すらも凌駕すると一本気で思っていた。それがゆえに長谷部は思う。きっと、彼女の言葉には深い意味があり、そこには海よりも広く天地の尺よりも遥かに高らかな崇高な意図があるのだと。

だが、それなのにその時に思い浮かんだのが『ネコ=性的行為の受け。主に男色てきな意味で』であるあたり、長谷部がいかに現状浮かれているのかが知れる。

「え、そ…お、俺は…」
「ん?」

「俺だって相手が主なら喜んでネコになります!!!」

「君はなにをいってるんだ」

意味が解らないと冷たい視線を送るが、長谷部は『きゃ〜いっちゃった〜!』っと先輩に告白したJKのようにでかい図体をクネクネさせるばかりだ。



(……うわ、これはネコ耳補正あってもちょっとひくわ)



主のこころ、長谷部(ねこ)知らずである。

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