SBではじめましょう-1

「うち寄ってく?」
引越しの荷物も片付いたし(といっても本と服を仕舞うだけだった)、送ってもらったついでにコーヒーの一杯くらい淹れるよと言ってみる。
バーナビーは一瞬何かを考えるように無言で固まった。
あれ?これはまた”危機感が足りない”とかそう言われるやつ?でも付き合ってるんだからいいよね。
「じゃあお言葉に甘えて」
とバーナビーはぎこちなく微笑んだ。
そんなに構えるほどの部屋でもないんだけどな。

バーナビーはソファに座ったもののなんだかとても居心地が悪そうだった。
「あー、あんまり片付いてなくてごめんね?」
視線がさまよっていたので何となくそう声をかける。
「いえ。イメージしていたのと違ったので…」
イメージってのは私の部屋のイメージ?
「いや、えっと、違ったというよりリンの部屋がどんなのか想像がつかなかったので」
なるほど。
この部屋は明るいベージュを基調にオレンジとライトグリーンを挿し色にまとめてある。
バーナビーが座っているソファは少し暗目のベージュだ。
壁の一面は天井までの本棚が占めている。
「もっとピンクとかレースの女の子っぽいほうがよかった?」
マグをテーブルに置きながら意地悪く聞く。
濃いピンクのストライプ柄のマグを手に取ったバーナビーは
「少女趣味は落ち着かなそうなので歓迎しませんが、このライトグリーンはピンクにしてもいいと思いますよ」
と、ソファに置いたクッションをポンと叩いた。
さっきまでの借りて来たウサギみたいだったバーナビーはいつものバーナビーに戻ったらしい。
「黄色と緑で迷ってそっちにしたんだけど、」と言いかけて
ミドリよりピンクにしろというバーナビーの意図にやっと気づいた。
ラグ(グリーンだ)は無理だけどクッションカバーくらいなら買い替えよう。
そのクッションをぽいと放って、バーナビーの隣に座った。


「ばーなびー、ばにー、ばーにー、ばにちゃん、ぶるっくすさん、うさちゃん…」
もたれた肩が震える。
「うさちゃんって何ですか」
「ワイルドタイガーがテレビで言ってた」
はぁ、と大きなため息が漏れる。
「少なくとも後半三つはナシです」
二人きりの時に呼び方変える?という話からの流れだ。
「コニーは?」
「…勘弁してください」
あはははは
「僕はリンの口から名前を呼ばれるだけで嬉しいから」
だからなんでもいいんですけど、と私の髪の毛を耳にかけて囁く。
バーナビーは私を抱きしめるように手はそのまま髪の毛を撫でる。
近い。耳元で震える空気に心拍数が上がる。
こんなに長い時間密着するのは初めてだ。
頭の中にばくばくと心臓の音が響く。心臓じゃなくて血流か。
「ね、なまえよんでください」
初めてきく甘い声。
「ばーなびー」
私も耳元に口を寄せて囁く。
ふわ、と空気が和らぐ。
甘くてふわふわした気分にたまらなくなって、バーナビーにギュッと抱きついた。
ああ、すきだ。

がばっと私から離れたバーナビーは耳まで真っ赤だった。
あれ?今照れるのって私の方じゃないの?
「僕も、好きです」
ぁぁ、口からでてたんだ。
二人で赤い顔をして見つめあって同時に笑う。
「ね、もいっかいぎゅってして」
バーナビーはちょっとだけ難しい顔をしたから、私から抱きついた。
否定はしなかったもんね。
首元にぐりぐりと頭をくっつけるとバーナビーの両手が背中に回る。
「ぎゅってして」
もう一度繰り返す。
回されただけの腕に力が込められてぴったりとくっつく。
あ、いい匂い。
どくどくどく…これはどっちの心臓の音だろう。
体温が気持ちいい。
自然に吐息が口からこぼれる。

「っはあっ」
みたいな変な声を出してバーナビーが離れた。
ちぇー、もっと抱きついていたかったのに。
「リンがそんな声を出すからっ…」
バーナビーが困ったように笑って私の頭を撫でる。
不満が顔に出ていたようだ。
「二人だけのときはくっついてもいい?」
ぴったり隣に座って腕を絡める。
バーナビーがビクッとしたけど気にしない。
「ね?」
下から顔を覗き込む。
「それともバーナビーはくっつくの嫌い?」
NOと言えないのをわかって聞く。
「嫌いじゃないです」
思わずにんまりしてしまったのは仕方が無い。
だってやっと触れられる距離になれたんだもん。
すき。
すきだから知りたい。
すきだから近づきたい。
すきだから触れたい。
ただそれだけ。
「僕の心臓を壊さない程度にお願いしますね」
絡めていた手を持ち上げて口づけされる。

それはこっちのセリフだ。ばか。

ティーンエイジャーでもあるまいし、隣に並ぶだけでどきどきするなんて
これはやっぱりSBのプリンスの破壊力なのかな。



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