10


バーナビーが連れて来てくれたのはSBが一望出来る高台だった。
すごい。きれい。向こうにみえる橋がネックレスみたい。
「あれがミノタウロス。リンさんが言っていた角のついた像です。そっちがグリフォン。ライオンという人もいますね。」
コニーに連れて行ってもらった場所よりも街からは少し離れているようで、遠くまでよく見える。
あの時は寒くてすぐに帰ってしまったし。
「あっちがダウンタウン地区で…」
バーナビーが指差して教えてくれる。肩が触れ合うほど近い。
車だろう光が流れその上を飛行船が飛んで行く。
気温が低いせいか空気が澄んでいる。
バーナビーが貸してくれたストールをぎゅっと体に巻き直す。
「寒かったら車に戻りましょうか?」
まだこのきらめく街を見ていたい。
「もう少しだけ」
もう少しだけ、バーナビーの近くにいたい。

車に戻ると外の寒さを実感する。
くしゃみがでなかったらもうちょっと隣に並んでいられたのにな。
借りたピンクのストールを畳んで返す。
ピンク…彼女のとかかな。そしたら悪いことしたな。
「暖かかったです。ありがとうございました。」
「役に立ってよかった。僕はこういうものをつかわないので会社にあるのを持って来たんですけど」
???
「えっと、同じ会社の彼女さん?」
バーナビーはきょとんとした後大きく否定した。
「違います!彼女なんていません!!そうじゃなくて、えーと…僕のグッズです、これ。」
なんか恥ずかしいんですけど、といいながらストールを広げる。
ストールの隅にバーナビーのマークが刺繍してあった。
「自分のグッズを持ってくるのもどうかと思ったんですけど防寒に適したものが他に見つからなくて…」と呟くバーナビー。
自然と顔がにやけてしまう。
「暖かかったです。ありがとう」
用意して来てくれるなんて優しい人なんだな。

ドライブをしながら橋や建物の説明をしてくれたけど、位置関係はよくわからなかった。
でも、バーナビーの声が心地よくて続きを促すように相づちをうつ。
「リンさんは観光はあれからどこかいきましたか?」
「電気街とHERO'S BARに連れて行ってもらいました。ビッグツリーも。あとは、展望台は初日に上ったんですけど昼間だったので夜にも行ってみようと思ってるんです。」
「そうですか。あそこのカフェはデザートがおいしいらしいですよ。」
「ですってね。イチオシのケーキがあるらしく、連れて行ってもらうんです。」
「お友達に?」
ん?
「いえ、それは仕事先のひとです。ロボにしか興味がないと思ったら意外にスイーツに詳しいんです。この間もらったお菓子もすごくおいしかったんですよ。」
あれはなんて店だったかなあ。
バーナビーが小さくため息を吐く。
「あ、ごめんなさい。そんな話どうでもいいですね。」
しゃべりすぎたと口を閉じる。
「いいえ。リンさんは甘いものお好きなんですね。よかった。」
赤信号で停車すると小さな紙袋を差し出される。
中にはラッピングされたカラフルなマカロンが入っていた。
「わあ、かわいい。」
「仕事の合間にでも召し上がってください。」
ああ、おいしそう。
「今食べてもいいです?」
言ってから呆れられるかなと思ったけど、バーナビーは微笑んだ。
了承と受け取って包みを開ける。
いくつもの色にどれにしようか迷う。
色で味が違うんだよね、きっと。
ブラウンはチョコレートかな?グリーンはメロン?マスカット?ミント?オレンジ色はオレンジでしょ。ベージュは紅茶とか?うーん…
バーナビーがサイドブレーキを引いた音に顔を上げる。
ちょっとまってて、と彼が降りた先にはコーヒーの販売車があった。
私がマカロン食べるって言ったから寄ってくれたんだ。わああああ

「わざわざありがとうございます。なんかすみません。」
いいえ、と微笑むバーナビーにどきりとする。
濃いピンクのマカロンを取り出して齧る。
フランボワーズだ。ふふ、おいしい。
「あっ、バーナビーさんも食べます?」
なんて、もらったものだけど。
じゃ。と言ったバーナビーは私の手をとり齧りかけのマカロンをぱくりと口にいれた。
手、あったかい。
じゃなくて、食べかけ!!!!
「あのあの…」
なにも言葉が出てこない。
「うん。美味しいですね。やっぱりおすすめを聞いてよかった。」
いやそうじゃなくて、おいしいけど、そうじゃなくて
「あ、全部食べちゃいました。フランボワーズ。」
「…いえ。だいじょうぶ、です」
うろたえてるのが恥ずかしくなった。
バーナビーにとってはなんてことない行動なんだ。
ストールを用意したり、お土産にお菓子をくれたり、そういうのも全部。
きっとこのドライブも教授に頼まれたんだろう。
方向音痴にSBを案内してやってくれって。


ホテルの前でコーヒーの香りが残る車から降りた。
ヒーローバーナビーは親切で優しくてサービス精神溢れる人なんだな。
ちょっとときめいちゃったけど、これもサービスの一つだ。
そうだ、いいお土産話になったじゃん。
手を掴まれたことを思い出して頬が熱くなる。
出張が終わるまであと四日。
うん、すてきなエピソードだ。帰ったらシュウに自慢してやろう。ヒーローとドライブしたよ!って。





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