第16話

ルーシィからの連絡でギルドに戻ったグレイとロキを待ち構えていたのは、ある男だった。

そう、今回の事件の最もたる要因の魔導士だ。男は縄で縛られ嬉しそうなナツの足元に転がっていた。

「グレイ! 喜べ! これで元の世界に帰れるかもしれねぇぞ」


今朝から仕事に行くと言っていたナツが出向いていたのは件の魔導士の情報集めのためだったらしい。元々はエルザとルーシィが請け負った囚人護送の任務の一端だったが、その囚人の逃亡のため囚人の捕縛に任務が変更となった。しかし手がかりもなくて止む無く二人は捕獲することができず帰路に就くことになる。その間にグレイが入れ替わるという事件が起きたのだ。

ナツは朝から魔導士が逃げ出した近辺の街に赴き、酒場や食堂などで怪しげな男の情報を聞き出していた。といってもそうそう簡単には見つけ出せない。長年様々なクエストをこなしてきたナツだ。これは長丁場になりそうだと覚悟もした。

しかし、その不思議な魔法を使うという魔導士の話は近辺の街では大きな話題になっていたのだ。各町の役場や掲示板に張り出されていた手配書のおかげもあるだろうが、彼の魔法、それが人々に実しやかに噂される一つの要因になりえた。


ここ、アースランドにおいて誰しも魔法を使えるというわけではない。その潜在能力があるというだけでそれを発揮し、使いこなすのにもまた才能や努力、運などが必要だ。その特殊能力の中でも彼の魔法はさらに特別だったのだ。

ナツも言っていたように扉を出す、という魔法。ただの見せ掛けだけではない。扉を開けるとあたかも別の世界に行った錯覚に踊らされる。

これはつまり時空と時空を一旦切り離して再度繋げるということだ。エルザの換装のように別空間にあったものを現実の空間に出現させるのとはまた違う。そもそも人を移動させるのとモノを移動させるのとでは絶対的にエネルギー量が違うだろう。

どちらかというと星霊たちの能力の方が近いかもしれない。彼らは星霊界とアースランドの狭間を瞬間的に移動している。そして件の魔導士は同じ世界のある空間とある空間をつなげて瞬間移動をするという魔法を使役するというのだ。


派手ではないが特殊な魔法に町の人々は興味を持ったようだ。その魔導士の情報はあちこちから上がってきて丁度ナツが聞こうとしていた人たちもその話をしていたところだったらしい。

お尋ね者になっているのだからそうそうこんな街中には出てこないだろうが、今朝方ここへ来る途中で彼を見かけたという行商人がいたのだ。行商人は山道を通ってきたのだが、その途中木に寄りかかっている人物を見かけたそうだ。その人物が魔導士だった。そんなこと露知らず、動けないのかと心配になった行商人は何かできないかと近寄ろうとしたところ突然切りかかられ、そのままこの町までやってきた。彼が魔導士だと知ったのはここについてからだったそうだ。


とんだ災難にあった行商人だが、ナツにとっては情報をもらっただけで十分で最後は御座なりに聞いて導士を見かけたという場所まで駆けだした。瞬間移動を使えるのだ。既に遠く離れているかもしれない。一抹の不安を抱えながらも息を切らしていった先に奴は逃げずにそこにいた。

体術で(勿論魔法でも)ナツに勝てるものなどそうそういない。魔導士は体術は並で魔法も両者とも使わず、呆気なくナツのKO勝ちと相成った。そしてそのままお縄にしてギルドまで連れてきたのだ。



「珍しくナツの大手柄ね!」

「珍しくとはなんだよ! 俺様はいつだって結果出してんだろ!」

ルーシィのお褒めの言葉に納得のいかないナツだが、それもハッピーにあげ足をとられた。

「ん〜、報酬減額とか? それとも器物損壊とか?」

うぐっ、と変な声を出したナツは軽く咳払いをして気を取り直したようにグレイに言った。

「よし、準備はいいか!?」

「は……?」


突然のナツの言葉にグレイは言葉を詰まらせる。


「元の世界に戻るんだよ」

「え……、戻れるのか!?」

「あ? ああ…、多分。戻れるんだろ?」

そんな簡単に戻れるとは思ってなかったグレイは驚きの声をあげる。ナツも自信満々に言っていたくせに半信半疑なグレイの反応に不安になったのか、縄でぐるぐる巻きになっている魔導士に問いかけた。

しかし返ってくるのは沈黙ばかり。

「おい、聞いてんのか、コラァ!!」

ナツの罵声にも動じた風のない魔導士はそっぽを向いたように目を合わせようとしない。

焦れたナツはとうとう炎を纏わせて脅しにかかる。と、漸く燃やされると観念して魔導士は口を開いた。

「無理だよ。もう魔力がない」

「……何ぃ!?」
「ええぇっ!」

ナツとルーシィの叫び声がギルド中に響き渡る。


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いつみさんがひどい暴投をナイスキャッチしてくれました!続きはこっち

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