「なあ、こんなこと聞いたんだけどよ……、」


事の始まりは少年探偵団の一人、元太の話にあった。


***


「ここ、ですね…」


ある建物を見て光彦が呟く。それにつられてコナンも三階くらいある建物を見上げた。
ここは今誰も使っていない廃屋だ。
そんな場所にコナンを含む少年探偵団たちはいた。


「ねえ、本当に行くの…?」


歩美が不安そうに元太たちを見る。
何を隠そう、ここは最近噂になっている幽霊が出ると言われているビルなのだ。
しかし歩美の不安そうな表情とは裏腹に元太、光彦は、少年探偵団で解決するぞー!と息巻いていた。
そんな彼らを見たコナンはひっそりとため息を吐く。


「いいの?工藤君。幽霊が出るらしいわよ」


灰原がからかうように小声でコナンに話しかける。


「バーロー。幽霊なんかいるわけねーだろ。……ただ、」

「ただ?」

「ここ。誰かが生活してるような痕跡があるんだよな…」


コナンの言う通り、ざっとこの建物を見渡してみると確かにきれいだ。まるで誰かが掃除して住みやすくしたかのように。
これは思っていたより厄介なのかもしれないと哀は思った。


「おーいコナン!灰原!早く来いよ!!」

「あ、おい!待てお前ら!!」


二人が考えている間に子供たち三人はすでに中に入ろうとしていた。
嫌な予感を感じつつも、コナンたちも慌てて建物の中へと足を踏み入れたのだった。


***


中は案外静かだった。
コナンと灰原は周りに対して警戒を怠らずに歩く。

二階まで来たときだった。ふと、ある部屋から物音が聞こえた。
五人は一気に体を強張らせる。
コナンはなるべく気配を消して、ドアの向こうを覗く。


「(アレは…!)」


コナンが見たのはひとりの男。
それがただの男ならまだよかっただろう。しかしその男は数週間前に殺人を犯し、指名手配されていた匂坂久司だった。

コナンは即座にドアから離れると、後ろにいた子供たちに小声で、しかし早口で言った。


「(早くここから逃げるぞ!!)」

「え?」

「(いいから!!)」

「おい、そこで何やってんだ」

「「「「「!!」」」」」


突然後ろからかかった声。
それはコナンが見たのとは別の男だった。ここにいたのは一人ではなかったのだ。
その声に気付いて部屋から出てくる匂坂。


「どうした?」

「ああ、ガキ共がいてな。見られてた」


コナンたちを見つけた男は、どうする?と匂坂に問いかける。
そんな二人の手には鋭く光る刃物が握られていた。


「ま、見られたからにはな。生かしちゃおけねーだろ」


匂坂はそう言って笑った。



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