「あげは、」


ツナは去年同じクラスだった見慣れた背中に呼びかける。あげはと呼ばれた女子生徒は墨を零したような長い黒髪を靡かせ振り向いた。髪と同じように黒い瞳がツナを捉える。


『お、沢田じゃん。今年も同じクラスみたいだね。…山本と獄寺も』

「おう!今年もよろしくな、紅藤」

「つーかついでのように言うんじゃねーよ!!」

「あはは…」


去年と変わらないやり取りにツナは思わず苦笑した。きっと二年になっても騒がしい日々が続くのだろうな…。
あげはは去年席が近くなったことからツナと仲良くなった女子だった。外見はどこにでもいるようなごく普通の女子生徒だが、獄寺の睨みにも臆することなく常にやる気のない表情を浮かべている、というように少し変わっていた。


『…今年は去年より面倒になりそうだなァ』

「え?」


あげはがぼそりと呟く。これは予感じゃない、確信だ。だって今年からは…、


「「あげはせんぱーい!!」」

『ぐえっ』

「!?…ええ!?」


突如後ろからあげはに抱きつく二人の人物。潰れたカエルのような声を上げるあげはと目の前のことが理解できていないツナ。声には出さなかったものの獄寺と山本も呆気にとられたように口を開いたまま固まっていた。


『……久々知、尾浜、言葉遣い』

「「あ……」」


あげはに抱きついたままの二人はしまったという表情を浮かべた。


「ごめんごめん、あげは!そう睨まないでよ!」

「そうそう、そんなことよりもっと大事なことがあるんだ!なんと俺達全員同じクラスだったのだ!」

『うん、知ってる。あーあ、面倒だわー』

「「ひどい」」


心底嫌そうに顔を歪めるあげはに久々知と尾浜は両手で顔を覆って泣く仕草を見せた。そんな二人を見て、冗談だよ、と笑うあげは。


「ね、ねえ、あげは、あのさ「あげは、兵助、勘右衛門、ここにいたのか」


ツナの言葉は第三者の声によって遮られた。


「「三郎!雷蔵!八左ヱ門!」」


後ろから現れた三人の男子生徒に向かって久々知と尾浜は手を振った。あげはも、おー、と抑揚のない声を出して片手を挙げる。
未だにあげはにくっついている久々知兵助と尾浜勘右衛門。そしてあとから現れた三人、鉢屋三郎、不破雷蔵、竹谷八左ヱ門。ツナはこの五人とは話したことはなかったが、認識はしていた。彼らは友人の獄寺、山本と同様に去年から何かと目立つ存在であったのだ。ただ去年は……。


「なあ、お前らってそんなに仲良かったっけ?」


ツナと同じことを思ったのだろう。山本がツナの感じた疑問を代わりに口にした。そう、去年は五人それぞれは目立っていたものの、仲が良いという感じではなかった。いや、むしろお互いにお互いを意識しているのかさえも怪しい、そんな関係だったはずだ。
それとも違うクラスだった自分が知らなかっただけだろうか。ツナはそう思ったが、ふと周りの視線に気づく。掲示板に張り出されたクラス発表を確認し終わったのであろう他の生徒たちも驚いたように、今もわいわいと楽しそうに話すあげはたちを見ていたのだ。
そんな中、山本の言葉にいち早く反応したのは鉢屋だった。


「お前たちには関係のないことだろう」


ふいっと顔を逸らす鉢屋を隣にいた不破が諌める。


「こら、三郎、そんな言い方はないだろう。ごめんね、山本君。三郎の言ったこと気にしないで」

「三郎は警戒心が強いからなー」


揶揄うように笑う竹谷に鉢屋が蹴りを入れた。何すんだよ!と竹谷は声を上げたが、表情は至極楽しそうで、この二人の仲が良いことは一目瞭然だった。


『鉢屋、竹谷、うるさい。不破、そこは悩まずに二人を止めようか。そんで久々知、尾浜、アンタらはいい加減あたしから離れろ』


今まで黙っていたあげはが面倒くさそうにそう言った。先程からツナたちも含め、周りの視線が痛いのだ。元来目立つことは好きではないというのに…。あげははあからさまにため息を零した。


「せんぱ…じゃなかった、あげはは冷たいなー。せっかく同じクラスになれたっていうのに」


尾浜が口を尖らす。


『そう、それ。全員同じクラスとか絶対誰かの陰謀が働いてる気がする…』

「どうせ立花先輩あたりだろう。あの人は抜け目がないからな」

『ああー…うん、やっぱり?』


鉢屋がニヤリとあげはを見やる。隣ではさっきまで騒いでいた竹谷がうんうんと頷いていた。
立花。その名前もツナは耳にしたことがあった。一つ上のこれまた目立っていた先輩の名だ。


「でも先輩たちは僕たちと違って"昔"と同じクラス分けなんだよね?」

『そうそう。まあ、アイツら全員同じになると学級崩壊するだろうし?』

「ああ…七松先輩とか七松先輩とか、あと七松先輩とか?」

「兵助、それ結局七松先輩だけじゃん。いや、言いたいことはわかるけど」

「勘ちゃん、顔が引きつってるぞ」

「兵助もね」


話についていけないツナたちを置いて、会話はどんどん進められる。


「とにかくさ!先輩たちには先輩たちなりの考えがあるんだろ?俺たちは俺たちでいいじゃん」

「ハチの言う通りだな」

「だね。それよりそろそろ教室行かない?」

「席も皆近くだといいよね」

「私も雷蔵の近くがいい!」


周りの視線など気付いていないように五人は並んで歩き出す。


『沢田、さっき山本の言ったことだけどね、』

「え?あ…」


山本の言ったこと。それはさっき自分たちが感じた疑問のことだろう。


『答えはイエスだよ。アイツらはずっと昔から仲が良いのさ』


あげははニッと笑う。その直後に自分の名前が呼ばれ振り返ると、少し先を行く五人があげはが来るのを待っていた。
まさかこんな日常を過ごすことになるなんて、昔のあたしは思いもしなかっただろう。あの頃の情景を思い浮かべてあげはは誰にも気づかれないように頬を緩めた。


『じゃあ沢田、山本、獄寺。また、教室で』




運命で結ばれた僕ら
(結局アイツら何だったんスかね…?)
(……俺も、わからないや)


―――――――――――――
一度やってみたかった落乱×復活です。夢主含め忍術学園の生徒、先生たちは皆転生して復活世界で過ごしています。
六年→中三で一年→小四。夢主は落乱世界では六年生と同い年だったけど、復活世界では五年生たちと同じ並盛中二年生。落乱世界の夢主の設定はこちらから。
作中でツナや山本が感じた疑問に答えるとするなら、夢主を除く忍たまたちは去年まで前世の記憶がなかったため、お互いに関わり合いがなかったから仲良くなかった、みたいな。夢主や教師陣は生まれた時から記憶があった。

一年次のクラスは夢主、ツナたち→A組、五い→B組、五ろ→C組。
前世が忍者なので身体能力が高い。記憶を取り戻したのは春休みの時で、新学期が始まるまで体の感覚を取り戻すため鍛錬をしていたとか。夢主含む忍たまたちは記憶を取り戻した春休みから学園長の計らいによって全員同じ寮に住み始める。親はそれに反対しなかったのかとかそういうのはなしのご都合主義。

完全に私しか得しない話です。


title:秋桜-コスモス-




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