彼のその眼は |
はあ、と息を整える。こんなに走ったのは久しぶりだった。 ヒバリを追いかけてやってきた黒曜ヘルシーランドの入り口には数人の黒曜生が倒れていた。ヒバリがやったのだろう。 あたしも早くいかなきゃ。……でもその前に、 『ここはどこだァァァ!!』 誰かあたしを助けてくれ。 前回のシリアス返せよコノヤロー。意気込んで出てきたってのにどうして迷子になっちゃうんだあたし! そもそも近道しようとこの林に入ったのがいけなかった。横着せず普通にいけばよかった。 『…いや諦めるな。前に進めばきっと出口は見えてくるよ、うん』 自分で自分を励まして足を進める。が、数歩進んだところであたしは止まった。 『(誰かいる…)』 木の陰に人の気配があった。あたしはいつでも戦えるよう剣道部からパク…借りた竹刀を袋から出しておく。 さて、 『そんなところでこそこそやってないで出てこれば?』 「………」 あたしが声をかければ出てきたのは黒曜の制服を来た少年。 『アンタ…「助けに来てくれたんですね!」………はい?』 少年は人のよさそうな笑みを浮かべてあたしの言葉を遮った。まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったから思わず間抜けな声が出る。 『えーと……?』 「僕はここで助けを待っていたんです。貴女が来てくれてよかった…」 『ふーん……じゃあなんで助けようとしてる相手に殺気向けてるわけ?』 「!」 そう、彼は言葉や表情とは裏腹にあたしに少しばかりの殺気を放っていた。 きっとコイツは……、この件の黒幕。 「クフフ…まさかそんなことを言われるとは思っていませんでした。面白いですね貴女…名前は?」 『そーゆーのは自分から名乗るべきじゃない?』 「これは失礼しました。僕は六道骸」 『へー…あたしは紅藤あげはだよ』 さっきまでの普通の少年のような表情は消え去っていた。代わりに今少年、六道にあるものは禍々しい殺気と濁った眼。といっても右目は隠れて見えないけれど。 ……しかしそれより気になることがあたしにはあった。 六道のあの独特な髪形。何かを思い出させる。何だっけ…………あ、 『パイナップルか』 「は?」 『あ、ヤベ。口に出してた…。そーだよね、気にしてるよね。あんな変な髪形きっと美容師さんからの嫌がらせだよ。自分であんな髪型にするわけないもん。六道だってこんなナッポーヘア嫌だとか落ち込んでるんだよ!ああ!あたしってばなんてデリカシーがないんだ!!』 「…………」 『…………』 「…………」 『…………』 何か反応してくれるとうれしいな! 何故沈黙?お願いだからしゃべってほしい。 ……あ、まさかあのナッポーヘア、六道自身は気に入ってた、とか…? 『お、怒ってる……?』 「いえ、そんなことはありませんよ。ただ今から貴女をどうやって殺そうかと考えていただけです」 『滅茶苦茶怒ってんじゃん!!』 「クフフフフフフ」 『笑顔が怖い!』 六道は先が三つに別れた槍…三叉槍を取り出している。 ヤバい。これ本気だわ。 その時今まで隠れていた六道の右目が見えた。瞳の中に六と浮かび上がっている彼の右目の色は赤。左目は青。つまり、彼はオッドアイだった。 『へえ……オッドアイって綺麗だねー。初めて見た』 「………は?」 『あ、また口に出してた!』 慌てて口を塞いでチラッと六道の様子を伺う。彼はポカンとしたままこっちを見ていた。 あれ?怒ってない…? 『おーい…六道くーん?』 「……貴女は変ですね」 『いや変て』 六道はどこか切なげに笑う。その表情はとてもこの事件を起こした奴がする顔には見えなかった。 『……アンタ、この件の首謀者だよね?』 「ええ、その通りです」 『やっぱり…。で?何が目的?』 「それを貴女に教えるとでも?」 …まあ、そうか。あたしたちさっき会ったばかりだし。 prev next |