忘却の彼方 | ナノ


花火にうつした夢




京子とハルから一緒に夏祭りに行かないかと誘われた。二人とも浴衣を着るんだとか。
何それ超見たい。絶対カワイイに決まってる。しかも祭りと言ったら夜店がいっぱいだ。行きたい。すごく行きたい。なのに、なのに…!


『ヒバリのばかやろぉぉぉおお』

「うるさい。咬み殺すよ」

『もう咬み殺してるよ!』


顔を両手で覆い隠し、泣きマネをしていたあたしに容赦なくトンファーが飛んでくる。それはあたしの頭にクリーンヒットした。痛い。

話がそれるけど、ここ数日のヒバリの機嫌は最悪だ。さっき応接室に入って来た草壁さんが特に理由もなく咬み殺されるくらいヒバリの機嫌がよろしくない。
その理由というのも、最近並盛でひったくり事件が起きているからだ。すでに数件が被害にあっているのだが、まだ犯人は捕まらない。手口からして複数で行っているようだけど。

さて、話は夏祭りの話に戻る。
あたしが京子とハルと祭りに行きたいと言ったら案の定許しはもらえなかった。
まあ、予想はしていたさ。去年の祭りも風紀委員の活動費を集めるだかで、屋台を出している人たちからショバ代をもらってたからね。なんでも並盛では町を仕切っている奴にお金を払うのが伝統らしい。
だから今年も行くのだろう。


「そろそろ行くよ、あげは」

『あーあ…何が悲しくて制服で祭りに行かにゃならんのだ…』


あたしはため息を吐いてヒバリの後を追った。


***


ここは並盛神社。空が暗くなるにつれて屋台の明かりが一層華やかさを増す。
今日は花火もあるからか人がたくさんいた。
ただあたしたちの周りには誰も寄ってこないけど。ヒバリが群れを嫌ってるからね。皆の方から距離をおいている。咬み殺されたらたまらないと誰もが思っているからだろう。
いつもならこんな気まずい中歩くのは気が引けるが、今日は違う。
なぜなら、


『わたあめ水あめチョコバナナりんごあめわらびもち大判焼き』

「何の呪文だい?」

『ああ…甘味があたしを呼んでいる…』

「待ちなよ」

『ぐふっ…!絞まってる!ヒバリ君首が絞まってるゥゥ!!』


ヒバリに襟首を掴まれて引きずられる。
ヤバいヤバい!マジ首が!!意識が!!
あたしの限界が近づいてきたところでようやくヒバリは離してくれた。膝に手を当てて酸素を思いっきり吸い込む。マジ死ぬかと思った。


「今日、何のために来たのかわかってるよね」

『そりゃもちろん食べるたm……ウソですすいません今日は委員会の活動費を集めに来ました』

「わかってるならいいんだよ」


ヒバリの鋭い睨みとトンファーの脅しに負けたあたしは往来の真ん中にも関わらず土下座。それを見たヒバリはフッと笑うと踵を返して歩き始めた。くそうキレイな顔しやがって…!

そこからはあたしも真面目に風紀委員の仕事を手伝う。ヒバリや委員のリーゼント君たちがお金を集め、集めたお金をあたしが管理するという風に。
そしてある一軒の店の前に来た。チョコバナナと書いてある。


「5万」

「ヒバリさんー!?」

「テメェ何しに来やがった!」

「まさか」

「ショバ代って風紀委員に――!?」

『そのとおりだよツナ。これは風紀委員の活動費らしいから』

「あげは!?」


ヒバリとあたしの登場に驚いているツナ、獄寺、山本。でもあたしはアンタらが店やってる方にびっくりだよ。


「払えないなら屋台を潰す」

『…払っといたほうが身のためだよ。ほれ、あれ見てみなよ』


あたしが指さす方には風紀委員によって潰される屋台と泣きながらそれを止めようとする男性。
ツナたちが青ざめたのが分かった。


「たしかに」


お金を受け取ったヒバリはもう用はないとでも言うように隣の店の方へと言ってしまう。


『あ、ツナ。最近ここらでひったくりが多いから気を付けてね』

「ああ、うん…(あげは風紀委員になじみすぎ……)」


あたしはひったくりのことを警告してツナたちと別れた。


『ヒバリ、全部の屋台からお金集められたよ』

「そう」

『…じゃあさ、なんか買ってきていい?』

「いいよ」

『やった………あ?』

「?どうかしたの」

『…今、あっちを走って行った男。顔は見えなかったけど、ツナたちの店の金庫持ってた』


さっきツナたちがあの箱からお金を出したのをあたしは覚えている。それを伝えればヒバリは獲物を見つけたようなそんな眼をして口角を上げた。

「へぇ…それはひったくりで間違いなさそうだ。追うよ、あげは」

『りょーかい。男は境内の方に行ったよ』


あたしとヒバリはひったくり犯を捕まえるため、神社の境内の方へ向かった。



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