忘却の彼方 | ナノ


桜色に思いを馳せて




<明日の朝、迎えに行くから家にいなよ>

『は?』

<弁当は二人分ね>

『いや、ちょっ、』

<じゃあね>

『…………』


なんて、ヒバリから一方的な電話がかかってきたのはつい昨日のこと。
迎え?弁当?
ヒバリが何をしたいのかまったくもってわからない。アイツのフリーダムさはなんとかならないのだろうか。
そんなことは思うけれど、逆らったら逆らったでトンファーがとんでくることは目に見えているので、あたしは言われた通り弁当を二人分用意してヒバリが来るのを待っていた。

ガチャ


「準備はできてるかい?」

『準備は万全だけどせめてインターホンは鳴らそうか』

「面倒くさい」

『どこにめんどくさがってんだよアンタは』


ヒバリは合鍵を使ってあたしの部屋に勝手に上り込む。何度もインターホンを鳴らせと言っているのにコイツはそれをやろうとはしなかった。


「…私服なんて珍しいね」

『どっかの学ラン野郎が毎日あたしを学校に呼びつけるからね』


でも言われてみれば、ヒバリの前で出かけるとき用の服を着ることはあまりなかったかもしれない。部屋着は何回かあるけど。


『ていうか、弁当なんか持ってどこ行くのさ』

「花見だよ」

『マジで…?』


***


はい、そんなこんなでやってきました花見!
ちなみにここまでの移動手段はヒバリの運転するバイクだ。
お前中学生だろ、とかなんで警察は注意しない、とかそういった類のツッコみはもう諦めた。どうせ言ったって僕が並盛の秩序だからね、とか言う理由で終わるに決まってるし。


『…なんていうか、人がいないね』


今は桜が満開の時期。そして今日は休日。もっと花見客がいてもいいと思うのにあたしたちがいる場所からは人っ子一人見当たらない。


『まあ、人混みよりかはいいか。ヒバリー、この辺にシートひくよ…ってどうしたの?』


ヒバリは不機嫌そうに眉をひそめて、少し遠くを見つめていた。


「少し、向こうが騒がしいね」

『へ…?』


ヒバリはそれだけ言うと、どこかに歩いて行ってしまった。
だからあたしは広げようとしていたシートを片付けて、荷物を持ってヒバリを追いかける。


「何やら騒がしいと思えば君達か」

『あ、ツナたちじゃん』

「ヒバリさん!あげは!」


ヒバリの後を追いかけていくとそこにいたのはツナ、獄寺、山本。そして倒れている風紀委員だった。


「僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね。彼に追い払って貰っていたんだ」

「(また無茶言ってるー…)」

『アンタそんなことやってたの…』

「あげはだって人がいないほうがいいって言ってただろ?」

『それは否定しないけども』

「でも君は役に立たないね。あとはいいよ、自分でやるから」


そう言ってヒバリはゆっくりと倒れている風紀委員に近づく。その整った顔には冷酷な笑みを浮かべていた。


「い…委員長」


怯える風紀委員には気の毒だけどこっちだって触らぬヒバリに祟りなし、だ。ここは犠牲になってくれ。
あたしは彼に向かって心の中で合掌しておいた。


「弱虫は、土に還れよ」


ヒバリは折りたたんであったトンファーで風紀委員を殴り飛ばす。辺りに鈍い音が響き、風紀委員は動かなくなった。


「見ての通り僕は人の上に立つのが苦手のようでね。屍の上に立ってる方が落ち着くよ」


委員を平然と殴ったヒバリに戦慄しているツナたちを見て、ヒバリはそう言った。
いや、恐ろしいって。トンファーに血が付いてるんですけど。


「いやー絶景!絶景!花見ってのはいいねー!っか〜〜やだねー男ばっかっ!」


そんな時だ、場違いな声が聞こえてきたのは。



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