忘却の彼方 | ナノ


マフィアと邂逅




『ん?あれは……』


今日は珍しく風紀の仕事(別にあたし風紀委員じゃないんだけどね)がなく、久しぶりに甘味でも食べに行こうとしている時だった。
あたしの少し前には色素の薄い重力に逆らったような髪が見えた。沢田だ。
……うん。関わらない方がいいな。沢田は別にいいけど、アイツの近くにいるリボーンと関わりを持つのは避けたい。
あたしは気付かれないように先の道を曲がろうとした。そして途中で道端に落ちていた缶を蹴る。
案の定音に振り返る沢田。


「あ、紅藤さん」

『(…人生って上手くいかない)……沢田は今帰り?』

「(なんか不機嫌?)…うん。紅藤さんは?」

『あたしは今から甘味を味わいに行くのさチクショウ!』

「へ、へー…(なんかいつもよりテンションが)」


見つかったことで自棄になったあたしは沢田とそんな他愛もない話をしながら歩く。
まあ、近くにリボーンがいる気配はないしいいか。


『…あ、そうだ。あたしのこと、あげはでいいよ』

「え…?」

『あたし、自分の名前結構好きなんだー…』

「あ、じゃあ俺のこともツナでいいよ」

『うん。じゃああんまりよろしくしたくないけどよろしくツナ』

「よろしくしたくないって何!?」


しばらく歩いていると少し先にいかにも堅気らしくない黒スーツの集団がいた。
彼らはあたしたちに気付いたらしく、全員がこちらを向く。隣でツナが小さく悲鳴を上げた。


「おかえりなさいませ。沢田綱吉殿」

「ええ!?」


男たちはツナのために道を開けた。態度と雰囲気からしてマフィア関係者だな。
面倒なことにならないうちにあたしはとっとと退散しよう。


『よかったねツナ。皆アンタの知り合いらしいよ……じゃっ!』


ガシッ


『……手ェ放そうかツナ』

「待って!一人で行くのは嫌だァァ!!」

『だからって女巻き込むか普通!?』


そんなあたしの言葉も空しく、あたしはツナに引っ張られ沢田家へと足を踏み入れてしまった。
最悪だ……。


「おかえりなさいツっ君。……あら?お友達?」

『あー…えっと、紅藤あげはです』

「いらっしゃいあげはちゃん。ゆっくりしていってね?」

『いや…あたしは、』

「あ、そうだ。ツっ君、お客様が来ていたわよ?」

「え?」


ツナは少し考える素振りを見せると、上の階へと上がっていこうとする。


「あ、あげはも俺の部屋上がって?無理矢理連れてきちゃったし、お茶でも出すよ」

『はいはい。……もーどうにでもなればいい』


あたしはツナの後ろについて二階へと上って行った。


***


部屋のドアを開けた先、そこにいたのは外にいた連中と同じような奴ら。そしてリボーンとツナの兄弟子だというキャバッローネファミリーのボス、ディーノさん。
モノホンのマフィアとか関わったらヤバいと悟ったあたしはそいつらから目をつけられないように、音を立てず去ろうとした。


「待てあげは」

『…………』


そして見つかった。


「ん?リボーン、こっちの嬢ちゃんは誰だ?」

「コイツは紅藤あげは。ツナのファミリーだぞ」

「いやいやいや!何言ってんのリボーン!?あげはは普通の女の子なんだよ!?」

『そうだぞコノヤロー。誰がマフィアなんぞやるって言ったよ!?』

「へー、ツナのファミリーか。よろしくなあげは」

『話聞いてました?』


そんな爽やかな笑顔で言われても困るんですけど。つーか普通にイケメンだなこの人。


『…ていうか。あたしは成り行きでここに来たのであって、マフィアと関わる気なんざさらさらないんだよ。…てなわけであたしは帰る。甘味があたしを呼んでるわ!』

「いや意味わかんない」

「甘いモンならここにイタリアの土産であるけど…」

『これからよろしくお願いしますディーノさん!』

「切り替え早すぎ!何言っちゃってんだよあげは!?」


あたしはツナより早くディーノさんの前に座ると、ツナも諦めたように隣に座った。

その日、ディーノさんと何故かあたしまでツナの家に泊まることになった。



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