迷子になったら警察へ


――総司side――


あげはちゃんと一君遅いな、なんて。
そんなことを考えていた矢先だった。一君が一人で帰ってきたのは。


「あ?斎藤、あげはどうした?」

「それが……」


高杉さんの問いかけに一君が事情を説明する。
一君曰はく、あげはちゃんは何かを見かけた途端、急に走り出してしまったらしい。


「チッ…あのバカが」

「おそらく銀時を見たのだろうな…」


"銀時"
それはあげはちゃんたちの口からよく出てくる名前だった。


「…僕、捜してくるよ」

「ああ、頼んだ。沖田殿」


桂さんの声を背中で聞いて、僕は屯所を飛び出した。


「とりあえず電話してみるか」


僕が出てった後、桂さんは一人呟いていた。


***


「あげはちゃん、どこにいるのさ」


勢いで飛び出してきたものの、彼女がどこにいるかもわからないんじゃ手の打ちどころがないな。
そう思いながらも、一君があげはちゃんを見失った場所まで来た。

大分日が暮れて来ているため、周りにあまり人はいない。
それでもほんの少しの手掛かりに、とあげはちゃんを見た人がいないか捜す。


「…ああ!それって木刀を腰に差した長い黒髪の兄ちゃんかい?」

「(兄ちゃん……)たぶんその子だ」

「それならあっちの方に走って行ったよ。なんだかずいぶん焦ってるみたいだったが」

「そっか。ありがとうございます」


僕は教えてくれて男性に軽く会釈すると、いわれた方向に走り出した。

しばらく行くと、そこはほとんど人通りのない場所。


「あげはちゃーん」


人がいないのをいいことに彼女の名前を呼んでみるけれど、返事はない。

本当、あの子は人を振り回すのが得意らしい。
きっと屯所では一君の話を聞いた千鶴ちゃんや近藤さん辺りは相当心配しているだろう。それで土方さんは怒っているんだろうな。
あげはちゃんたちが来てから随分とにぎやかになった屯所を想像して、思わず笑いをこぼす。
いつのまにか彼女たちがいるのが当たり前になってしまった。
だから、


「早く見つかってよね」


キミがいないとどうも調子が狂うんだ。

ガサッ


「!あげはちゃん!?」


近くの茂みから物音。
漆黒の髪をなびかせた彼女なのか、と思わず振り返る。
しかし、そこにいたのは思い浮かべた女でも、猫や犬でもなくて。

白髪のような髪に、赤い瞳。


「羅刹……!?」


現れた羅刹は辺りを見渡し、僕に気が付いたのかのろのろと近づいてきた。


「こんな時に出て来なくてもいいのに…!」


逃げ出したなんて聞いてないよ。
一人ぼやいて、羅刹へと斬りかかった。


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