最近は戦もあまりなく若干平和な一時を過ごしていた。
そんな時だった。あんな事件が起こったのは。
***
『…………』
あたしは今、自分の部屋で目の前にある液体とにらめっこ状態にあった。
それは辰馬の仕送りの中に入っていた瓶。液体の色は透明だった。ラベルには【惚れ薬】と書いてある。
『いや、惚れ薬て』
効果など信じてはいないが、銀時や晋助辺りが悪用しないようにあたしが預かった。というか小太郎に押し付けられたともいうのだけれど。
『…こういうメンドくさそうなのは早く処分するに限るな』
あたしは近くの茂みにでも中身を捨てようと、瓶を持って立ち上がる。
「うおっ!?」
『へっ?』
ガシャンッ
あたしはよほどこの惚れ薬に気を取られていたらしい。銀時が部屋に入って来たのさえ気付かなかったのだから。
そしてその反動で落ちる瓶。飛び散る惚れ薬。少しだけそれを飲んでしまったあたし。
『(飲んじゃった……)』
「…………あげは、」
『え?』
飲んでしまったことに呆然としていれば、呼ばれる名前。顔を上げると同時にあたしは銀時に抱きしめられていた。
…え、何コレ。
『えーと…銀時?』
「あげは……好きだ」
惚れ薬って怖い。何コレ、ヤダコレ。ついこの間まであたしのことを女だとも思ってなかったヤツがいきなり告白ゥゥ!?
つーか飲んだあたしが惚れるんじゃなくて飲んだあたしに惚れるの!?
「あげは?どうかしたのか?」
『どうかしてんのはアンタだよ!一旦落ち着こう。落ち着いて話し合おう。てかとりあえず離せや』
「いやだ」
『…………』
銀時がさらに腕に力を込める。
ちょ、やめて。苦しい苦しい。
「おい、あげは。ヅラが呼んで………、」
『あ、晋助!ちょっとヘルプ!』
タイミングよく現れたのは晋助。あたしは晋助に助けを求めて手を伸ばすが、彼は何故か固まって動かなかった。
アレ、嫌な予感。
『し、晋助…?』
ドガッ
晋助はこっちに無言で歩いてくると銀時を思いっきり蹴った。
『…って、何してんのアンタ!』
「何もされてねェか?あげは」
『いや、うん。平気だけど……この腰にある手は何』
晋助は銀時を蹴とばした後、あたしを自分の方に引き寄せた。そんなコイツの右手はあたしの腕を、左手はあたしの腰に添えられていた。
「チッ、銀時の野郎。俺のモンに手ェ出しやがって」
『誰がいつアンタのモノになりましたか!?』
コイツもやられちゃったよオイ!半端ないな惚れ薬!!
「おい、」
「あ?」
さっき晋助に吹っ飛ばされ、意識を失っていた銀時が起きた。そして睨み合う二人。
明らかに空気が冷たくなってきてる。
「…こっち来いあげは」
『へ?うわ、』
銀時に腕を引っ張られ、すっぽりと彼の腕の中に納まる。晋助の不機嫌さがよりいっそい増した。
誰かどうにかしてこの修羅場。なんて、都合よく助けが来るわけでもなく。来たら来たでまたメンドくさいことになりそうだからいいけど。
あたしは険悪なムード二人に挟まれることとなった。
頭上ではあげはから手を離せ、やらあげはは俺を選んだんだよ、やらよくわからない争いが繰り広げられていた。
イヤ誰も選んでねーよ。むしろアンタが手を離せや。
そんな意味を込めて二人を睨んでも、二人はあたしを見ることなく。言い争いは止まらない。
そんなあたしも黙って抱きしめられてるようなヤツじゃなくて。
『……し………ら』
「?何か言ったか?」
『いい加減にしろよテメーらァァァ!!』
「「ぐっ!」」
我慢の限界に達したあたしは銀時の腹に肘打ちを一発、晋助の腹に蹴りを一発入れた。
動かなくなる二人。
『………ゴメン』
あたしはそう一言呟いて部屋を出た。
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