押さえ込んだ言葉は。


**斎藤一SIDE**





どたばたと騒がしい音がする。
忙しない足音は、どこぞの藤堂くんを思い出させる。

あと数日で晦を迎える今日この頃。皆が皆一つ歳を重ね、本来ならばこれまでを省察し、心身ともに進捗すべきだというのにも関わらず…。

「おいこらてめぇら!!ちゃんと掃除しやがれ!!!」

土方さんに怒鳴られる今日が幼稚な現状を物語っていて、注意する気も失せる。



もちろん、現に今遠くで聞こえる足音も、本来なら鬱陶しいはずの存在。

だが、そんな“足音”さえも好いた一部だ。
廊下を翔け歩くそれが誰のものかと問われれば、俺は間違うことなく答えられる。
―――“これは、名前の足音だ”、と。


こちらに向かうにつれ、だんだんと速度が上がっている。
何かに慌てているような気もすれば、怯えているような気もする。
大方、両者とも該当するだろう。

何食わぬ顔をして掃除を続ける俺。
しかし実は、稽古をする時と何ら大差ない集中力をそこに注いでいるなど、きっと誰一人として予想だにしない。




『ぎやぁあああ!!!!』


どったんばったんどったんばったん。

次第に大きくなる騒然さに、いよいよ周りの奴らも何事かと顔を見合わせる。

左之に新八、平助は、野次馬の如く広間から顔を出す。

「誰だよー?こんな野蛮な歩き方してんの」

「土方さんじゃねぇのか?」

平助の問いに答えたのは新八。

全く聞き捨てならない答えだ。
土方さんがあのような歩き方をするわけがなか――――――


   「総司ィィイ!!!!」


   「あぁ、総司にまた発句集とられたのかな?」





――――――……一部例外を除いて、だが。



しかし最初に聞こえたものは断じて土方さんのものではない。


「ん?でももう一人分聞こえるな。えーっと?土方さんと総司と…あとは誰だ?」

その通りだ新八。

「まあ少なくとも、千鶴や琥珀じゃねぇことは確かだな」

左之の言う“千鶴”と“琥珀”とは、訳あって新選組で預かっている異端児だ。
雪村千鶴は、彼女の父親探しに協力する為。
支倉琥珀【ハセクラ コハク】は、“あいつら”と同じく異世界から来たらしく、身よりがない故に預かっている。
どちらも男装―――それが果たせているかは否めないが―――をした女子だ。



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