押さえ込んだ言葉は。


――「おいおい。そこに名前は入れてくれねぇの?まあ、神楽を入れないのは分かるけどよ」

そう言ったのは、俺の後ろで雑巾を絞る男。
言葉には憐れみが含まれているが、表情から察するに全くその気はなく。むしろ愉しんでいるだろう。

  …入れて“くれ”ねぇの?
という言い方が、まるではるはこいつの物だと主張しているようで気に喰わないが。



雑巾を持って立ち上がると、白い着流しの裾からちらりと木刀が尻を出した。

何故“洞爺湖”と書かれているのかは分からないが、その木刀は時に真剣をも断つ威力がある。
…否、木刀の強度も確かに凄いが、彼の愕然たる手腕こそ褒めるべきだ。

普段は目を背けたくなるほどだらけているが、何かを守るときの彼は恐ろしく屈強だ。
…“侍”という言葉が、そっくりそのまま当て嵌まってしまうほどに。



「いやいや、銀さんも分かってるでしょ?あいつなら遣りかねないって」

にやにやと笑う平助は、たぶん彼女を女だとは認識していない。
…女に手も足も出なかった事実を認めたくないのもあるやもしれぬが。


「…まあ事実、正解はあの子なんですけどね」

ふっ、と軽く笑う銀さんこと坂田銀時。
生気を微塵も感じさせない目を、優しく細めている。

特定の時にしか見せないその表情に、毎度毎度、俺は不甲斐なくも勝ち目のないことを実感する。

その証拠に、今のせりふだ。
足音だけで彼女だと見抜いた。先刻の微かな叫び声も聞こえたはずだ。

そこは俺も同じだが、こいつはきっと名前が暴れている理由もお見通しなのだろう。


俺たちの新選組が在るこの時代とは違う、――…何と言ったか…――“ぱられるわぁるど"なる世界から来たこの男。

時代は一緒のようだが、文化や技術は雲泥の差。
信じられないようなからくりが開発されている世界から来た。

時折よく分からない言葉を使うのは、銀時だけではない。
名前や、神楽という小娘も、えりざべすを連れる桂たちもまた、異世界の住人らしい。



何度も名の出ている名前というのは、少々荒っぽく、なるほど手嫋女【タオヤメ】とは遠く縁の離れた女子である。
だがしかし、女子としておくには勿体ないほどの実力と魂を持つ彼女に、俺は惹かれている。



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