確証のない迷信は信じない方がよい


『あーやっぱ縁側で甘味と緑茶を食すのは最高だわ』

「何を言うかあげは。縁側では昔から蕎麦と緑茶と決まっている」

『決まってねーよ』

「!?」

『ねえ、なんでありえないって顔してんの!?あんたの思考のがありえないわ!!』


のどかな午後の縁側であたしと小太郎は座っていた。
ちなみにサボリとかじゃないから。ちょっとした休憩だから。

それにしても平和だ。
そんなことを考えていると、向こうから洗濯物を抱えた千鶴が歩いてきた。
相変わらずよく働く子だなー。いいお嫁さんになれるんじゃないの?
男装(あんまり意味ない)してるのがもったいないくらいだよ。

あたしはたまには千鶴も休んだ方がいいんじゃないかと思い、声をかける。


『千鶴ー、千鶴も隣座りなよ』


あたしの言葉に小太郎が頷く。


「そうだぞ。働き過ぎはよくない」

「えと、でも…」


あたしたちの言葉に戸惑う千鶴。
あーもう、何このキューティーガール。

温かいまなざしで千鶴を見ていると、あることに気付く。


『千鶴、髪紐ほどけそうだよ』

「え?」

『結び直してあげるからここ座んな』


あたしは隣に来るよう千鶴を促す。
今度は素直に座った彼女の髪紐をあたしは一旦ほどいた。
そして結び直そうとしたところで、


「にゃあー」


そんな声が聞こえた。


『…あ、猫』


声のした方を見ると、あたしたちの傍に一匹の黒猫がちょこんと座っていた。


「わあ、可愛いですね」

『うん。でもどこから来たんだろ?ねえ、小太郎………小太郎くーん?』


あたしが小太郎の方を振り返れば、奴は俯いて肩を震わせていた。
そんな様子に千鶴が心配そうに声をかける。


「桂さん?だいじょ…「肉球ゥゥゥウウ!!」…え!?」


千鶴の言葉を遮った小太郎は突然顔を上げ、黒猫に抱きつこうとした。
しかし黒猫がひらりとかわしたため、小太郎はみごとに地面に顔面ダイブした。
千鶴が驚いて固まっている。

ああ、こいつ肉球好きだったな。
あたしはその様子を冷めた目で見ていた。
それがいけなかった。

小太郎の行動に驚いた黒猫はあたしが持っていた千鶴の髪紐をくわえ、屯所から素早く走り去っていった。
………ん?髪紐をくわえ?


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!髪紐ォォォオオ!!』

「あげはさん!?」

『ごめん千鶴!!絶対取り返してくるから!!』

「待てあげは!俺も行く!!」

『てめーは面倒くさいから待ってろ!!』


あたしはそう言い残して、屯所から飛び出した。


 



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