そうだ、京都へ行こう


『左之さん、永倉さん早く早く!!』


京の町に出てきたあたしたち。あたしたちの後ろから歩いてくる二人を急かす。


『…あれ?なんか二人顔色悪くない?』

「「なんでもない」」

『?』


二人が総司に黒い笑顔でいってらっしゃいを言われたことをあたしは知らない。
何もしゃべらない二人はもうほっとくことにしよう。今は銀時がここに来ているかどうか調べるのが優先だ。

あたしは周りを見渡す。
前ここに来たときは猫を捜していたり、晋助に会ったり、総司が怖かったりでしっかりと見ていなかったが、改めて見るとまるで昔に戻ったようでなんだか、


「懐かしい、か?」

『心読んでんじゃねーよヅラ』

「ヅラじゃない桂だ。顔に出ていた」

『マジでか』


そんな顔、してたかな…。いや、無意識か。
上を見れば雲一つない空。周りを見れば天人のいない町並み。そして隣には幼馴染。どうしても"あの頃"を思い浮かべてしまうのかもしれない。


「大丈夫か?」


黙っているあたしを心配してくれたのだろう。小太郎があたしの顔を覗き込んできた。


『…うん、大丈夫。あんたこそ思い出してんじゃないの?』

「そうだな…」


ほら、あんただって大丈夫じゃないじゃん。鏡で見てみなよ、自分の顔。
しんみりしてしまったあたしたち。そこで後頭部に痛みが走った。


『痛っ!何…って晋助君?マジでそれ何?』

「大根」

『イヤ、それは見ればわかるけども』


あたしの頭を殴ったのは晋助で何故か晋助は大根片手にドヤ顔だ。
どうしてそうなった?あたしたちが話している間に何があった?てかなんで大根んん!?


「うっとうしい面してんじゃねェよ。…あ、元からか」

『その申し訳なさそうな顔やめれ』


何なのこいつ!あたしそんなにうっとうしい顔してるか!?
晋助はあたしを見てくつくつと笑った後、小太郎の方に歩み寄って行った。次の標的は小太郎らしい。
皆さんもお気づきだろう。ほうら、殴られた小太郎と殴った晋助が喧嘩始めたよ。あ、止めに入った永倉さん殴られた。

あたしは三人の様子を遠巻きに眺めていた。さっきのしんみりとした雰囲気は消え、今はもういつも通りだ。


『(…もしかして晋助は慰めてくれていたのだろうか)』


もしそうだとしたら、嫌なツンデレだなオイ。大根だし。
晋助らしいっちゃあらしいけど。あいつも大概素直じゃないな。
あたしは本当は優しい幼馴染を想って一人笑った。


「なんか嬉しそうだな、あげは」

『左之さん』


隣にはいつの間にか左之さんが立っていた。あれ、そういえば…

左之さんは喧嘩を止めに行かないんだね?
新八がなんとかしてくれるだろ。

あたしたちの間で無言の会話が成立した瞬間だった。
左之さん、永倉さんを犠牲にして逃げたな。ドンマイ永倉さん。
あたしは心の中で永倉さんにエールを送った。


『…左之さん、』

「ん?」

『あいつら待ってると時間かかりそうだし、あたしたちだけで先行っちゃおうよ』

「そうだな」


あたしと左之さんはまだ終わりそうのない三人(一人は巻き込まれてるだけ)の喧嘩から目をそらして、逆の方へと足を進めた。


「そういえばどうして町に行きたいなんて言い出したんだ?」

『んー、知り合いがこっちに来てるかもしれないんだよね。まあ確信はないんだけど』


そう言ったら左之さんが、それって銀時って人か?と問うてきた。
そういえば左之さんとは前に銀時の話をしたことあったな。途中で一君に邪魔されたけど。
あたしは左之さんの質問に素直に、そうだよと答えた。


「そうか…。見つかるといいな」

『うん…』


その会話をを最後にあたしたちはしばらく無言になる。しかしそれも面倒くさいのが来た時点で終わった。


「面倒くさいってなんだよ、あげはちゃん!!」

『永倉さん読心術でも心得てんの?』

「読心術っつーかもろ口に出てたんだけど…」

『あーマジかーやっちまったなー』

「全然やっちまった感出てねーよ…」


現れたのは永倉さん。彼はぼろぼろだ。理由はだいたい想像つくけど。あれ、そういえば、あの二人は?
あたしは左之さんに文句を言っている永倉さんを横目に二人を捜す。だが、見える範囲に彼らはいなかった。


『(あいつらどこ行ったんだろ…?)』


あたしは一人、永倉さんが歩いて来た方へと戻って行った。
そして二人が甘味処にいるのを発見するのはこの数分後のこと。




(何呑気に団子食ってんだテメェらァァァ!!)
(あげはも食べるか?)
(いただきます)
(態度変わんの早すぎだろ)


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