オタクダンサーとブックカフェオーナー 7話




「………う、あ…?んん………??」

朝起きたら見覚えのないとこで眠っていた。
フカフカのベッドと布団。うわぁ…この感じ実家にいた頃以来…。

いや、そうじゃなくて…ここどこだ。
そして、今何時だ。
…あっ、それより昨日のアニメ3つとも録画してあるか!?

「………?」

ベッドサイドに紙切れが一つ。

『すげぇ爆睡してたから起こすのも気が引けたんで俺は出かけるぞ。
朝飯は一応用意しといたからどうにかして食え。鍵は玄関にあるからちゃんと掛けろよ。いつか返しに来い。
サンジ』

几帳面そうな字で書かれたその名前を見てようやく昨日のことを思い出した。

「……あー………サンジ…か…」

練習して、腹減ったからあいつの店行って、終電に乗って、ここで寝たんだ。

時計を見たら、もうすぐ11時。
今日の予定を確認するためスマホの電源をつけると何件か通知が入っていた。

スポンサーと、ダンス仲間と、オタク仲間からのメールが数件。
どれも大した用じゃねぇから今返さなくても大丈夫か。
特に予定もない。金髪眉毛に鍵返したら家で録り貯めたアニメ見るか。

「………ふあぁぁ……」

ぐいーっと伸びをして、ベッドから出て、リビングの方に向かう。

寝室の戸を開けると、あいつの店と似たようなシンプルな部屋があった。
これがリビングか。

そこのテーブルに空の茶碗と汁椀、焼き鮭の乗った長皿、ひじきと玉子焼がそれぞれ入った小鉢、それと湯呑み…
すっげぇ和風だな……ひじきとか中学の給食以来だ…

『どうにかして食え』というのは、白米と味噌汁を茶碗に入れて食べろということだろう。…母親みてぇ

「台所…」

フラフラと台所と思しきところに向かい、炊飯器と味噌汁の入った鍋を探す。探し当てて、白米を茶碗に、温め直した味噌汁(具は油揚と豆腐、ネギとわかめ)を汁椀に入れる。

「…いただきます…」

なんだろう、この懐かしさは。
昨日もあいつが作った飯を食べたのに、やっぱり和食だからなのか?
実家にいた頃母親が作った飯みたいな感じする。
うまいなぁ……


………いやまて、俺は他人の家で何をやっているんだ…!?
半分眠った状態で上がり込み爆睡。起きたら住んでる奴はいなくて、飯だけが完璧に用意されている。
しかもその相手が友人とか付き合いのあるやつならまだしも…2回店に飯食いに来た(しかも2回目はただ飯)だけの関係の奴なんだぞ…!

「うまいけど……」

罪悪感がすごい…
さっきまでアニメの録画を気にしていた自分が恥ずかしい…!
さっさと飯食って、皿洗って、鍵返そう!そして謝らなければ!
俺だったらさっきまで客だった奴なんかに自分家上がらせねぇよ…
あいつ…すげぇいい奴だ

でも、迷惑だったろうから、サンジとはもう関わんない方がいいのかもしれない…

「……ごちそうさまでした」

そう思った瞬間、悲しくなったのはなんでなんだろう。
空っぽになった皿を、なんだかとても虚しい気持ちで片付けていた。



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