「えらく遅いな」

小鳥を行かせてから随分と経つ。
光が反射し輝く石に、刻の光は集まってきている。

やはり無理だったのか。
この村に来た時に見たあの少女は、小鳥を嫌っていた。
小鳥の外に出るのを渋っていた理由も、そのことが原因だろう。

「…なんだ…?」

刻の光が同じ方向に動き出した。
石から離れ、飛んでいく。
立ち上がり、着いていくことにした。

「小鳥…!」

刻の光が集まった場所は、小鳥の手の上で光る物だ。

「…それは、村人にやられたのか」

血で汚れた白い着物に赤が目立つ。
村人に恐れ外に出ることを嫌っていたために、日に焼けることはなくなったせいで色白になった肌にそれはなぜか合った。

「とりあえず治療するぞ」
『大丈夫。もう治りました』

それはやはり小鳥に起きているもののせいか。

『ギンコさん』
「それは鉱石か」
『父がくれたものです。どうしても手放せなくて』
「この石が刻の光に影響を与えていたんだな」

わかっていたのになぜそれを手放さなかった、と問えば小鳥は立ち上がり、

『父のことをいつまでも覚えていられるように。私は死なない。父が死んでからもう20年も経つ。思い出も少しずつ薄くなっていく。その穴を埋めるためにどうしても、これは手放せなかった』
「それがたとえ、村人に影響があってもか」

俺が問えば、小鳥の目は一瞬少し濁り、目に光がなくなった。
俺はそれに気付きもう一度目を見るが、何も変わらない青だった。

「(なんだ今の)」
『村の人達は母を看病してくれましたが、刻の光の影響で日に日に衰弱死していく母を見て、その当時もう異端だった私を原因として、離れさせました。…最後の死に際にも会えなかった』
「しかしお前の母親は、その石が原因ではなかったんだろう」
『そう、ただの偶然。偶然刻の光が母だけを狙っただけ。私は何も悪くないの。…それを思い出すと、村の人達が憎くなったの』

ぽろぽろと涙を零す。
血が涙で流され、それを小鳥は着物の袖で拭った。

「蟲を知らない者と共存するのは難しい」
『その言葉だと、私の時が止まった理由、わかったの?』
「ああ。お前の親父さんの書物を見てな」
『…私は全部は読めてないの。ギンコさん、あの量を一晩で読んだの?』

昨晩小鳥が眠ってから、書物をいろいろと読ませてもらった。中には俺も知らない蟲の存在のことも書いてあり、興味が湧いただけだが。
見つけたのは、偶然だ。

「偶然あの部分を読み、お前の"中"にいる蟲のことが分かった」
『へえ、その蟲ってどんなものなの?』
「…それは気付いてないのか」

呆れて言うと、頬を膨らませながら全部は読んでないって言ったでしょ、と小鳥は言う。

「お前の中にいるのは刻の光とは対の"韻(いん)"という蟲だ。刻の光とは対に影を好む。お前の父親はおまえの中にいる韻の存在に気が付いてその石を渡したんだ」
『それが、書物に?』
「ああ。刻の光以上に他の書物には韻のことで溢れていた」
『そう。父は分かってたのね…』

小鳥は優しく笑った。

「刻の光は時を進める。しかし、韻は時を戻す。お前の中の韻と周りにいた刻の光が反発し合い、お前の身体の時は止まったままなんだ。韻は人に取り付くと成長を喰う。しかしその石が光を強め、韻の力を弱めたが、お前の長年の成長を喰って力が付き過ぎたんだろう」
『私の中の韻が大きくなって、周りの刻の光を弱めたのね』
「ああ。だが朝や夜が来るにつれ、力が弱くなったり強くなったりする」

こんな時だが、小鳥の理解の早さには関心した。
父親の書物を読んでいるとは言え、やはり蟲師以外の者にはわからないものも多い。

「それにお前は影の多い家の中で生活していただろう。それも力を強める理由になる。だから村人は時が進んだり戻ったりしたんだ」

しかし、刻の光は珍しい蟲だ。
こんなに発生しているのを考えると、小鳥の持つ石の影響だろうか。

『…私も悪かったのね。環境をめちゃくちゃにして、村の人達を殺してしまった』
「いや、韻の力がないと平行は保てない」
『でも結局は、平行を保つことなんてできなかった』
「お前自身でどうにかなることではないだろう」

俺がそう言うと小鳥は薄く笑い、立ち上がった。

『ギンコさん…』



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