『光を浴びれば私の中の韻は消える?』
「消えればもう不死にはなれないぞ」
『別にいいよ。望んでなったわけじゃないから。…そしたら普通の人らしく生きられるんだから。…でももう私がこの村に居続けるのは無理そうね』

だって、私がいると平行が取れない、と小鳥は言う。

「近いうちに、日蝕がある。その時にここにいる刻の光はいなくなるだろう」
『蟲ってそういうのに弱いの?』
「蟲によるな。お前の親父さんの書物にそう書いてあったからな」

俺が蟲煙草の煙をふう、と吐きながら言うと小鳥は、なんだ、と残念そうに、ギンコさんが知ってるのかと思った、と言った。

『でも戻ったとしても、私がこのままこの村にいることは無理そうね』
「しかし、お前が刻の光のいる村に行ってしまえばまたこの村のようになるぞ」

わかってる、そんなことくらい、と小鳥は悲しそうに呟いた。

「お前の中の韻は村から離れて薬を飲みながら少しずつ弱めるしかないな」
『でも私が村から離れたら刻の光が側にいなくなる』
「だから刻の光を持っとけ」
『え?』

俺は小鳥の持つ石を指差した。

「それは中に刻の光が閉じ込められている。それを持って薬を飲み続ければ、そのままの姿で元に戻るだろう」
『…それはギンコさんの考え?』

笑って言う小鳥に馬鹿にするな、と意味を込めてああ、と言った。

『じゃあ、私は旅に出ることになるのかー…。お父さん捜しに行こうかな』
「薬があると言っただろう。治るまで面倒見てやる」
『え?』
「俺も同じ場所に留まることができないからな。お前と同じようなもんだ」
『…じゃあ、よろしく、ギンコさん』

小鳥は嬉しそうに笑った。



* * *




「いいのか。何も言わずに」
『いいのー。まだ私、許してないから』
「おいおい…」
『……』

次の日。昼にしては誰もいないこの村の道を、どこか寂しそうに小鳥は俺の先をゆっくりと歩く。
そりゃあこの村にはこいつの母親の墓もある。そこにもうしばらく、もしかしたら一生、来れないかもしれないのだ。

「(治ればまた帰ればいいと行ったが、この村がその時まであるか、だな)」

山道に入ると、小鳥はふらふらと前を歩く。
ふと、足を止め空を見上げると、太陽が熱く光っている。

「あいつの中の韻はどんだけ成長したんだ…」

昨日の眠くなると言っていたのは小鳥の中にいる韻の影響だろう。韻が身体に深く入り込み、影響が出ているのかもしれない。しかし、日に日に小鳥の中の韻は大きく強くなっている。
普通は光に当たるだけで消えるものが、これだけ眩しいのに消えないということはしばらく時間がかかりそうだ。

『ギンコさん、…眠くなって、きちゃった』
「我慢して歩け」

進め、と小鳥の背中を押して少しの坂道を上る。こんな調子では道中、小鳥の中にいる韻と石の刻の光の反発で急に倒れて眠ったりしないか不安だ。
小鳥のあの村の木の色をした髪が目の前でサラサラと流れた。


日蝕のあった日から随分と経ち、あの村の噂を聞いた。時が元に戻り、木々が生い茂り、畑もまた綺麗に稲が育ち、田畑には色んな野菜が育っているという。



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