ドンドン、と戸を叩くと少女が出てきた。
不思議そうにこちらを見る少女は、目は青く髪は色素が薄いのか、木の茶色をしていた。
「あんたが小鳥か?」
『そうだけど…あなたは?』
髪をさらさらと流しながら小鳥は首を傾げた。
「蟲師のギンコという。よかったら、この村に起こっていることを詳しく教えてくれないか」
俺がそう言えば少女は目を伏せ、どうぞ、と言い、中に招いた。
「この家に一人で住んでるのか」
『ええ…両親は20年前に死にました』
「…お前、村人に歳を誤魔化してんのか」
『失礼ですね。私は18です。でも20年前にも私はいました』
小鳥は口早にそう言うと、村の人に私のことを聞いたから来たんですよね、と聞いて来た。
「ああ。歳をとらないとかなんとか」
『私は姿も形もそのままで何も変わらないですが、村の人たちは会う度に変わっていく。同い年だと誕生日を祝えば、3日後には歳を取り衰弱死した』
着物を握りしめながら話す小鳥の目は潤む。
声も落ち着きがなくなってきた。
『赤子に戻る子も入れば、年を取る者もいる。若いのはもう私しかいません』
きっぱりと言い切る小鳥は、次第に着物に涙をぽとりぽとりと落としていく。
『…これは蟲のせいなのでしょうか』
「蟲が見えるのか…!」
『はい。小さい頃からずっと。私の父も蟲師で、よく色んな蟲の話をしてくれました』
小鳥の父親は蟲師だと言う。
母親はどうしたのだろうか。
「母親はどうした」
『母は衰弱死です』
「お前の周りの者だけに影響があるのか」
『…』
「小鳥、蟲のことはよく知っているか?」
そう聞けば小鳥は自信なさげに少し、と呟き、父に少し習いました。後は残された書物を読んで…と言い、書物を俺に渡した。
「刻の光(ときのこう)のことを調べていたのか?」
パラパラと捲るとその蟲のことがずっしりと書き込まれている。
『詳しいことはよくわかりませんが…。村の人達と母の時を狂わせたのは、その蟲が原因なんだそうです』
「親父さんはそのことに気付いていたのか」
『はい。でも、その蟲を追い払う薬草を取りに出かけたまま、帰りません。探しに行こうにも、この村から出られず…』
それは、道中で亡くなったか。
しかし、出られないとはなんだろうか。
『村の外に出ようとすると、また時が狂うんです』
春や夏、秋も冬も時期に関係無く来るという。
『私がこの村から出ていないからといって、今の季節が本当の季節なのかもわかりません』
山の季節も変わるため、山に囲まれているこの村はその向こうの季節のことを知ることはできない。
『私が出て行くことによってはたしてそれは元に戻っているのか、わからないんです』
人だけではなく、季節にも影響があるのか。
しかし聞いたところ、その影響があるのは命あるもののみだ。
「刻の光は光に混じる蟲だ。光は影に弱い」
『なら、影を作ればいいと?』
「ああ。光が無くなると同時に消える。日が登っている間だけ動くはずだが…」
夜にも影響があるのか。
群れで動く小さな蟲だ。そこまで力があるとは思えない。
「何か別の蟲が関係しているかもな」
『なら、明日にしましょう。もう日も暮れてきましたし、今日はここで休んでください』
小鳥はそう言い晩食の用意をすると言って部屋を出て行くと、自由に見ていいと言われた書物を捲った。
「しかしよく調べてあるな」
何に弱く何に強いかそれは詳しく。
そして最後の1枚を捲ると、
「これは…」