10年前。それまでは幸せだった。
『…お母さん』
この家から、そしてこの世から居なくなった母の最期を看取ることができなかった。
『お父さん。お母さん、死んじゃったよ。もう、薬草なんて探さなくてもいいんだ…』
2年前に出掛けた父は、帰ってこない。
父に母のことを知らせたいが、どこでなにをしているかもわからない。
そして、…生きているのかもわからない。
『……』
私は一人になってしまった。
村でも一人。
私にはこの村の人達には見えない物が見えた。
ふよふよと飛ぶそれもまた一人で、私みたいだと思ってしまった。