あいつは自分からモノを言うということが出来ない。
『……』
「おい、どうした」
いつものように手を引っ張って山道を歩く。
まだ日も高く、今日はどこまで歩けるかと考えていると雛の歩くペースが落ちたのだ。
「…おいおい」
とうとう立ち止まってしまった。
少し優し目に手を引っ張ってみたが、歩こうとはしなかった。
『…ギンコ』
「あー…」
雛の指を指すほうを見ると、こいつが初めて名前で呼んだなとかそんなことは吹き飛んだ。
指の先は雛の足だ。血が出ていた。
「どこかで引っ掛けたのか」
『……』
「痛くはないか?」
分かるだろうか。
『分からないけど…いつもと違う』
「それが痛みだ」
こいつの考えていること、中身が分かれば、もっと俺もこいつのことを分かってやれるかもしれないが…。人間、そんなことはできない。
「とりあえず…」
持っていた布切れを飲み水で濡らすと、傷口を丁寧に拭いた。
「……」
痛いのか、痛くないのか。
普通は拭いているときや酒で消毒したときは痛がるもので、ああ、もう少し優しくしてやろうと思ったりもするが…。
『……』
「(…これはどっちだ)」
表情を見ても、なにも変わっていない。
酒で消毒してみるが、変わらない。
「…痛くないか」
『…さっきのと同じ』
…痛かったのか。
とりあえず、あの村から引っ張り出してきたのはいいが、人に触れ合い感情を知ることが大切だろう。
…結構な時間がかかりそうだ。