「雛!お前今までどこに…」
「村人と山に居たんだ」

戸を開けると心配そうに雛に駆け寄る朔にそう言うと、またか、とため息をついた。

「あの人、いつまで雛を利用すれば気が済むんだ…」
「そのことだが、雛がああいうことをわかるようになったのはこの状態になってからだと聞いたが、本当か」
「雛」

朔は山道を歩いて汚れていた雛の足を見て、綺麗にしてこい、と言うと俺の前に座った。

「そういうことは自分で出来るのか」
「俺が何度も教えたからな。これからのために、言われたらこうするということを身体に教え込もうとな」

…教えれば出来るようになるのか。

「それよりさっきのことだけど、雛は気配に敏感になったんだ。ギンコが来たのも分かったし、山にいる動物だって分かる」
「それも蟲の影響だな」
「ったく、雛にはあんなやつの言うことなんて聞かなくていいって言ってんのに…」

朔は言い終わると俺に、何か言伝とかなかったかと聞いてきた。

「親父さんが早く戻れと言ってたと」
「親父め…。明日婿入りだから気が張ってんだろう」
「雛のことはどうするんだ。一人で生きていけるとは思えんが」
「…親父たちに頼もうと思ってる」
「親父さんたちは大丈夫なのか」
「無理なら叔母にでも頼むよ」

暗い表情をしていた朔はそこでパッといつもの表情に変えた。

「そうだ、雛がさっき妙なことを俺に言ったんだよ」
「妙なこと?」
「ああ。光は闇にのまれていく、あの星と同じだ、と」
「他には何も言ってなかったか」
「他は別に…」

光は闇に。あの星というのは雛が見た星だ。
そこで俺は確信をついた。

「…朔。あの星はもう二度と、現れないだろう」



* * *




『……』

ふと思った。
朔は、きっと私に隠していることがある。
最近の朔は変だからだ。ときどき顔を歪め、それがどんな気持ちの顔なのかは分からないが、前はそんな顔をしなかった。
私は日に日に何かを失っている気がする。しかし、それが何かは分からない。冷たい何かが身体を這い回っているような…。
声に出して言いたい。助けてほしいと。
でもその考えもすぐに何かに食べられるかのように、消えていく。ギンコさんは私をその何かから助けてくれるのだろうか。朔は私が治れば、あんな顔をしなくなるのか。

『……』

…あれ、今…何を考えていたんだっけ。


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