「…しかし…」
暗くなるまで何をしようか。
家にばかり居ても蟲を寄せ付けるだけのため少し外を歩いてみるか。
「星というのは日が昇っている間は見えないからな…」
空を見上げても、眩しく照らす太陽があるだけだ。
「あれは…」
少し先に山の入り口に向かって立っている雛がいた。
俺が外に出た時は家の中に居たはずだが。
『……』
「雛、今日も頼むぞー?」
銃を持った男の村人が雛の背中を押して山の中に入って行った。
「(狩りか…?)」
しかし、頼むとはどういうことなのか。
雛は見たところ自分から行動するということができないらしい。家からあの男に連れてこられたのか?
「…少し見て行くか」
* * *
「雛、どうだ。今日は猪を狩りたいんだが」
『猪…?』
「ああ、気性の荒い獣さ」
『…もうちょっと奥』
「奥か?ちょっと待て」
村人は抱えていた銃を右手に持ち直し、左手で雛を引っ張ると山の奥に歩いていく。
「おい、狩をするのか」
「…あんたは?」
「蟲師のギンコという。雛がいたから追って来たんだが」
「雛、知り合いか?」
『…家に来てくれてる』
「ああ、医者が呼んだ例の…」
村人はそこまで言うと納得したみたいで俺に、あんた、見て行くかと言ってきた。
「狩りをか?」
「今日は猪を狩ろうと思ってな。雛が言うにはここから近いみたいだ」
「場所がわかるのか」
「こうなっちまってから、なにやらそういうのがわかるようになったみたいで。周りは色々言うが、俺はこのままでもいいけどな」
村人はまるで自分の物のように自慢すると、はははと笑った。
「(おいおい…)」
「お、わかったか」
雛が立ち止まると、それにつられ俺たちも止まった。
「今日はどれくらいいる?」
『2…3』
「それは、今日も大量だな!」
村人は笑いながら銃を構えた。
『そこ…少し右』
がさりと草が動く場所を村人は撃った。
そして続いて、雛が指示した場所を2箇所撃った。村人は撃ち終わると、確認のためか、撃った場所へと歩き始めた。
「ああ、雛。ご苦労さん。もう戻っていいぞ」
振り向かずに言った村人。
本当にただ雛を利用しただけのようだ。
「戻るぞ」
「ああ、あんた、雛は引っ張ってやらないと歩けないよ」
「ああ…」
「そうだ、朔に言っておいてくれ。お前の父親が、そんなとこにおらずにさっさと戻れと言ってるってな。あいつも息子が婿に行くってんで、ピリピリしてんのさ」
父親か。そりゃあ婿に行く身が他の女の家に泊まるとなるとそうなるだろう。
雛の腕を掴むと、引っ張るように歩き出した。
「お前、歩けないってここまでどうやって来たんだ」
『…さっきの人に連れてこられた』
「朔には言ったか?」
『…朔が居ない時に来たから』
そこでなるほどな、と呆れた。今頃朔は心配しているだろう。一人では歩けない雛が居なくなったというのは、誰かの助けがないとできないことだ。これは早めに戻ったほうがいいだろう。
「少しだけ早く歩けるか」
俺が連れ出したと疑われちゃ困るな。