ジムノペディ第一番2



先輩がソファで身動ぎをやめて眠りに着いたのを見届けた後、いつのまにか僕も寝てしまっていたようで目を覚ますと部室には夕陽が強く差していた。
先輩が寝ている筈のソファを見やると先輩がいなかった。
「あれ、先輩…」
「君は目の前の私に気がつかないでさっき私がいたところを見るのだね」
探偵のようにそう言う先輩は、僕が座っている机の前にある椅子に腰かけていた。
「で、ジムノペディは何番まであるの?」
「ああ、その話ですか。三番までですよ」
「え、案外少ないね。それで、それにまつわる逸話とかはないの?」
「またそんな無茶を。あ」
「そりゃあるわよね、私を寝かしつけて勿体ぶらせたのだから」
いたずらに笑う先輩を見ながら僕は言うべきか悩んで、結局言うことにした。
「このジムノペディってタイトルの由来は、青年が神々を称えて全裸で踊る祭典からきているらしいですよ。なんだかジムノペディアみたいな名前のやつで」
「何それ、全裸で踊ることで称えることになるのか」
先輩は驚いた顔をした後、酷く真面目な顔をして腕を組んだ。
先輩のこういうところに僕は惹かれる。どんな小さなことでも真剣に考えるところ。それは生きにくいだろうと思う。しかし先輩はそれを感じさせないかのように笑う。
「いやねえ、何にやけているのよ」
「えっ」
自分で気がつかない内ににやけていたらしく、僕は反射的に頬を触る。
そんな僕が面白かったのか、先輩はいつものように快活に笑ってみせた。
僕もつられて笑ってしまう。
「今のでにやけたってことは、君もしかしてそっちのけがあるのか…?」
「そんなところまで真面目にならなくて良いですから」
「否定はしないんだ」
「否定します、そっちのけはありませんよ」
「へえ、じゃあ女の子が良いのか。幸恵ちゃんみたいな?」
「はあ、だから僕は彼女のことが好きとは一言も」
こうして今日もいつも通りの日常が過ぎていく。いつか僕の気持ちを伝えられることはできるのだろうか。そしてきっとその時も、先輩は真面目に考えてくれるのだろうな、と勝手に想像すると告白もしていないのに救われた気持ちになるのだった。




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