「ここにいたんですね」
誰もいない体育館でひとり佇んでいると、みょうじさん、と声をかけられる。
春高が終わって早2ヶ月
今日はわたしたち3年の卒業式だ。
「赤葦。どうかした?木兎たちのとこに行ったんじゃないの?」
「行きました。みなさんみょうじさんのこと待ってますよ。」
「そっか。じゃあ行かないと。」
「多分ここに来ると思います。」
木兎さんがスパイク打ちたいって言っていたので
なんて赤葦が言うから2ヶ月前までは当たり前だったその光景を思い出す。
「教室とか、思い出の場所はたくさんあるけど、やっぱりここがいちばん落ち着く。」
「俺はこの2ヶ月落ち着きませんでした。3年生がいない体育館は寂しいです。」
「珍しい。赤葦も寂しいとか思うんだ。」
思いますよ、と少しムッとして言う赤葦に笑みがこぼれる。ケタケタ笑っていると、急に赤葦が試合中のような真剣な顔をしてわたしを見た。
「部活にも、学校にもみょうじさんがいないの、寂しいです。」
「あ、かあし?」
「好きです」
「・・・え?」
急に告げられた言葉に頭が真っ白になる。
目の前にいるのは、赤葦だよね、えっと、今なんて??
と少しずつ頭を回し始めるがなかなか思考が追いつかない。
「みょうじさんのことが好きです。会えなくなるの、嫌です。」
「わたし・・?え、うそ」
「嘘じゃありません。俺と付き合っていただけませんか?」
目を見て真っ直ぐ伝えられたその言葉に、胸が熱くなる。
「わたしも、赤葦のこと好き。あの、わたしでよければ、」
と言っている途中でふわり、と抱きしめられた。
「すみません。嬉しくて、つい」
ガラガラガラッ!
いきなり体育館のドアが開き、雪崩のようにマネージャーを含めた3年が倒れ込んできた。
「あ、ごめん」
「続きドーゾ」
そんなことを言われ、赤葦を見ると目を見開き、顔を真っ赤にさせている。
あ、そいえば今赤葦に抱きしめられてるんだ、と思ったらわたしまで真っ赤になった。
「・・・いつから見てたんですか?」
「赤葦が好きって言ったとこから、です。」
ごめん、赤葦!覗くつもりはなかったんだ!
と弁明するが、みんなにやにやしている。
「よかったな、赤葦ぃ!お前ずっとみょうじのこと好きだったもんな!!」
「ちょ、木兎さん!余計なこと言わないで下さい!」
ニカッと悪気なく言う木兎に、珍しく赤葦は焦っている。
「ずっと・・・?」
「いや、それは、ええっと」
しどろもどろになる赤葦に、
「わたしもずっと前から好きだったよ。」
と囁けば、赤葦はまた一段と顔を真っ赤にさせる。
勘弁してください、と顔を手で覆う赤葦が愛おしい。
今日は新しい赤葦がいっぱいみれた。
きっとこれからもっといろんな表情がみれるんだな、と少し先の未来が楽しみになった。
旅立ちと始まり
Congratulations on your graduation!
Congratulations on your graduation!