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帝の側にいた美麗が、酒を持ってやってきた。
明らかに不機嫌な顔をしていて、俺は苦笑して席を空ける。
「せっかく気持ち良く飲んでいたのに」
「顔に出すなよ。婚約者さまに追い出されるぞ」
「別にいいわ。そのつもりだし」
冗談交じりで窘めたつもりだったが、意外な答えが返ってきて思わず杯を持ち上げた手を止める。
美麗は涼しい顔をして、その手の杯に酒を注ぎ足した。
「おまえは残るんじゃないのか」
「まさか」
「なんで」
「私は陛下に仕えるためにいるのよ。仲に仕えるためにいるんじゃない」
美麗が帝の周囲を警戒しているのは知っていた。
だが、それでもずっと側で支えていくつもりなのだと思っていた。
「私は女だから、見逃してもらえるかもしれないわね。でも、私は侍女じゃなくて官よ。政に携わる信念に、男と違いはないわ」
彼女は俺の思考を見透かしたように笑った。
俺は恥じ入って押し黙った。
そうだ。
美麗は俺なんかよりも長く帝に仕えている。
今の帝の下でも熱心に仕事をしていたから、それを情からくるものだと勘違いしていた。
「すまん」
「あら、素直」
俺は謝って、美麗に杯を取らせて酒を注いだ。
この人や鄭英と働けなくなることは、正直寂しい。
色々なことを教わっている先輩だ。
変事を乗り越えてきた同志だ。
俺たちは道半ばで、支えるべき人を置いて去らねばならない。
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