月が高い。
闇が濃くなり、光がいっそう明るさを増す。

「本当に月が綺麗だ。酒も美味い。いい晩だな」

そう帝に話しかけて、親しげに笑ったのは仲栄清だ。
話しかけられた帝も、幾分か気の抜けたように笑みを返した。

絵に描いたような理想の男女の姿だ。
皇家の姫と、大臣家の御曹司。
旧知の間柄という二人の間には見えない絆があって、他人が入る隙もない。
堂々とした栄清の振る舞いは、いつもどこか不安そうな帝の隣に並ぶと安心感があった。

これまでは、俺がただ、陛下へ「自分の理想の帝」を押し付けていたが、陛下自身はこうして頼れる伴侶を持ち、守ってもらえるほうが幸せなのかもしれない。

そんなことすら感じてしまうほど、相応しい相手だと思った。

帝が幸せになれるのならば、この結婚も考えるより悪くはないのではないか。

酔いの回った頭でぼんやりとそんなことを考えていると、ふいに眺めていた相手と目が合った。
反射的に頭を下げる。
栄清はじっと俺を見ていたが、ふ、と唇の端を上げて笑ったような表情をし、目を逸らした。

どうやら良く思われていないらしい。

祖父らから色々と聞いているのだろうと思ったが、耳に入っているとするならば、それより以前に帝を外に連れ出したのがまずかったのではないかと思い至った。
なるほど。
婚約者を連れ出す臣下に対して、どのような好意を持てばいいというのだろう。

自業自得だと思ったが、もう今更済んだことだ。
二人が結婚すれば、俺の存在など無かったことも同じ。
お払い箱だ。

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